おがさわらなるひこのオープンソースとかプログラミングとか印刷技術とか

おがさわらなるひこ @naru0ga が技術系で興味を持ったりなんだりしたことをたまーに書くブログです。最近はてなダイアリー放置しすぎて記事書くたびにはてな記法忘れるのではてなブログに移行しました。

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第10回 GPLv3 逐条解説書 輪読会

題記のイベントに行ってきましたよ。
IPAが公開している「OSS iPedia: ソフトウェアライセンシングとIPR関連情報」で公開されている「GPLv3 逐条解説書」、つまり GPLv3 の各条文をパラグラフごとに翻訳し、それぞれに解説を付与したドキュメントの輪読会です。

内容が内容だけに、「えっと、皆さん法務とかそういうのがご専門なんですか?」って聞いたら、基本的にはエンジニア同士のあつまりで、前は Linux の技術文書読んでて、一区切りついたので次は何読もうか、ああここにいいのがある、読もう読もう、という感じだったそうです。

私自身の動機

私自身は、今はまあ故障者リスト入りで仕事ってほどのことはしていませんが、こんな私でも野望はあって、私の勤務先のような周辺機器ベンダがフリーOSに対してどのように対応していけばいいかというのを考えているんですね。
あくまでも一個人としての意見ですが、少ない人的資源でそこそこ使えるものを出していくには標準に乗り、オープンを活用して、オープンに還元していくというのは、色々な懸念を考えても決して悪くない解だと思うんです。会社として最終的にどういう判断を下すかは分かりませんが。

ということで、オープンライセンスについて本買ったり、著作権法の解説書を図書館で借りて読んだり、ローレンス・レッシグの本読んだり講演会聞きに行ったり(いや、これは知り合いに教えてもらったんですが)いろいろじぶんなりに勉強してきたんですね。
んで、自社の知財や法務と話すと、全員が全員というわけではないだろうけど、まずソフトウェアのことを知らない。そしてオープンライセンスなんてもっと知らない。こんな人たち(すみません)に判断を丸投げして、ホントに大丈夫なの? むしろこっちが向こうに、ドキュメントの所在とか技術的裏付けを伝えるべきなんじゃないの? 少なくとも彼らが職業的能力を発揮できるレベルまでは。

なんてことを考えてたらこの輪読会を発見して、おお! と思って申し込んだものの二回連続病欠して(涙)、やっとこやっとこ参加したという次第。

相変わらず前置き長いな。

議論紹介

2時間枠の輪読会で自己紹介その他で1時間超過してしまい、その中には上で書いたようなこと(勉強会の背景を聞いたりとか、私の参加動機を話したりとか)や、あとプログラミング言語萌えな話をしたらなぜか「プログラミング言語Misa」*1 で超盛り上がったりとかしてしまったので、「あー初めてなのに空気読まずに雑談しまくってすみません」っていったら「いつもこんなんですよ」といわれ一安心?

さておき今回は第2章の翻訳を舐めて、こういうことかなあ、って議論して、それを元に解説に移って、想像が正しかったかというような進め方をしました。いつもこうなのかは知らないけど、私が翻訳の時点で「これってこういう解釈ですかね?」とか突っ込んじゃってたから (^^;)
結果的にはほんのちょっぴり解説が残っちゃいましたが、なかなか有益な議論ができたかと思います。

議論のポイントを簡単にご紹介。

第1パラグラフの「取消不能」
  • 「本許諾書に基づき許諾されるすべての権利は、本許諾書の定めに従うことを条件として、本プログラムの著作権の存続する期間許諾され、取消不能とする。」という一文。
    • これ、「誰が」「何を」取消不能なの?
    • 多分、「著作権者が」「GPLv3によって利用者に与えた権利を」取り消すことはできませんよ、ということなのかな?
    • 著作権者に対して釘を刺すと同時に、利用者の権利保護もしてるのか。
フェアユース
  • アメリカの著作権法には明確に「フェアユース」という概念がある*2
  • 日本の著作権法の第30〜50条には、例外規定と言う形で、例えば「引用」「教科書への利用」「図書館での複写」「私的複製」などとして列挙してある*3
    • 解説文によると今までの判例では判断が曖昧な場合は厳しめに判定されることが多いので、「これがOKなのだからこれもOKなのだろう」というような判断は危ない。
    • しかしデジタル時代を鑑みて日本の著作権法にもフェアユースの考えを盛り込むことが必要ではないかとの議論がある。
    • なおフェアユースといえばレッシグの「free culture」だと思うのだが案外みなさんご存じなかったので紹介しておいた。
プロパゲートとコンベイ
  • GPLv3 は「どっかの国で使われてる法律用語を使わない」というポリシーがあるので多くの耳慣れない用語が存在する
  • プロパゲートとコンベイはその代表格
    • これは第0章の範疇なのでここで議論するのは繰り返しになるのだけど、まあ復習ということで。

(第 6 パラグラフ)
著作物の「プロパゲート」(propagate)とは、準拠法国の著作権法上、権利者の許諾を得ずして行った場合に、権利侵害に基づく直接又は間接の責任を負うこととなる行為をいう。ただし、著作物をコンピュータ上で実行する行為、及び内部的な改変行為を除く。プロパゲートは、複製、配付(改変の有無を問わない) 、及び公衆への利用可能化を含む。さらに、国によっては他の行為も含む場合がある。
(第 7 パラグラフ)
著作物の「コンベイ」(convey)とは、プロパゲートに当たる行為のうち他者が複製すること又は複製物を受領することを可能にする行為をいう。ただし、コンピュータネットワーク上での単なるやりとりであって複製物の伝送を伴わない場合は、コンベイに当たらない。

    • 頭がうにうにになるけど、
      • コンベイはプロパゲートの真部分集合である。(コンベイとはプロパゲートに当たる行為のうち、……とあるので)
      • 日本の準拠法はむろん著作権法なので、この場合、「権利者の許諾を得ずして行った場合に、権利侵害に基づく直接又は間接の責任を負うこととなる行為」は、実はコンベイ(わかりやすく言えば複製再配布)しかない。
      • だから、「プロパゲートでありコンベイではない行為」は日本の著作権法に基づく限り存在しない。
GPLv3 著作物の内部改変
  • GPLv3 著作物を著作者自身が改変し、内部でコンベイすることは権利として認められている。
    • このとき子会社に配布したり、改変作業自体をアウトソースしたりすることもできる。
    • けど、これが外部に流出しないように管理する責任が著作者にはある。
      • つまり、流出しちゃったら「内部でのコンベイ」ではないのだから、責任取って GPLv3 としてちゃんと配布しなさいよ、ということだろう。

おしまい

最後に牛タンねぎしでご飯を食べておしまい。

非常に刺激になりました。面白かったです。
法務専門家がいないからこそ、普通なら素通りしてしまいそうなところでひっかかってあーだこーだ悩むのが面白い。

あんまり人数が増えると輪読会としてつまんなくなりそうだけど、あとちょっとなら大丈夫だと思います。もし興味がある方は参加されてみてはいかがでしょう?

また、参加するしないに関わらず、この解説書、およびそれ以外にも前述の「OSS iPedia: ソフトウェアライセンシングとIPR関連情報」の最後にあるシンポジウムのスライドはなかなか面白いので、こういうことに興味がある方はぜひご覧になることをお勧めします。
特に「GPLv3の利用について考慮すべきポイント」はGPLv3の概説としてとてもわかりやすいのでオススメです。

それでは皆さん、ありがとうございました!
今度も病欠しないように頑張ります (^^;)

*1:あえてリンクは張りません。ちなみに話題出したのは私じゃないですからねっ。

*2:もちろん正文読んだことないから受け売り。

*3:だれかが「ホワイトリスト方式」とおっしゃってましたが言い得て妙ですな。