おがさわらなるひこのオープンソースとかプログラミングとか印刷技術とか

おがさわらなるひこ @naru0ga が技術系で興味を持ったりなんだりしたことをたまーに書くブログです。最近はてなダイアリー放置しすぎて記事書くたびにはてな記法忘れるのではてなブログに移行しました。

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第13回 GPLv3 逐条解説書 輪読会

例によって行ってきました。
幹事の awazo さん、会場手配&アナウンス担当の takumi さん、いつもありがとうです。

イベントページはこちら
IPA が出している GPLv3 の解説書を肴にワイワイ議論をしましょうという話です。


今日ははじめましてな方がいらっしゃったので自己紹介をしたんですが、なんで4人しかいないのに1時間以上経過してますか?(^^;) まあ、誰かさん (俺だ) が本の紹介とかしてるのがいけない。多分。

えっと、まずは今更ではありますが、

オープンソースソフトウェアの育て方

オープンソースソフトウェアの育て方

の紹介。この輪読会の参加者なら必ず面白いと思うので、ぜひ読んでほしいです。
Web 版もありますが、もし Web 版が面白いとおもったら、書籍版の購入もお願いしたいです。
というのは、一度 Web でフリーで入手できるようになった書籍を商業出版物として出すというオライリー・ジャパンさんの英断を讃えたいのと共に、そういう文化が根付いてほしいなあという私の希望だったりします。あとほら、人に進めるときも、Web ページ読めって言うより本押し付ける方が効くじゃん?

あとついったーで話題にしたので、

情熱プログラマー ソフトウェア開発者の幸せな生き方

情熱プログラマー ソフトウェア開発者の幸せな生き方

の紹介もしました。ちょっと私にはマッチョに過ぎるけどいいこと一杯書いてあるよって。

それ以外にはプログラミング言語の話とか携帯 Java がツラい話とか Hewitt の Actor の話とか……なんでそんな話になったんだっけ? まあいいや。

前回の振り返り

前回、

オブジェクトを持ってない人にも要求されたらソースコードを開示しなきゃ駄目?

という疑問が出まして、しばらく停滞した後、先読めば分かるかなーと思いながらそこで終わったわけですが。
awazo さんが調べてきてくれました。すばらしい。ぱちぱち。

第6条(逐条解説書8*1、p66ー68。)に解説があって、「オブジェクトを所有しないものにはソースコードの配布義務はない」ことがv3から明記されるようになったそうです。逆に言えばv2では明記されてなかった。
これは縛りを緩くしたというより、「使ってない奴にまでソース渡すなんてヤダ」というニーズにきちんと答えることで、GPLをより多くの人に使ってもらおうという施策なのではないかな、と個人的には感じます。今回のGPL改訂はそういう意志を非常に感じるので。

第3条(技術的保護手段の回避を禁ずる法律に対するユーザの法的権利の保護)

係り受け関係がわけわかなタイトルですが、

  • 「技術的保護手段」は DRMCCCD のような、著作権に定められた権利(使用権、複製権など)をコントロールするための技術のこと。
  • 「技術的保護手段の回避」というのは DRMCCCD をクラックすること。
  • 「技術的保護手段の回避を禁ずる法律」というのはそういうクラックをしちゃダメという法律。
  • 「……に対するユーザの法的権利の保護」とは、そういう法律によってユーザがそもそも GPLv3 で与えられているはずの権利を阻害されないために保護するよ、ということ。

ですね。たぶん(弱気)。

もともと FSF としては DRMCCCD といった技術は自由な著作活動の妨げになるので、それを GPLv3 で開発することを禁止したかったようです。
しかしながら草案でそれを直接に禁止する条項を盛り込んだところ、「DRMCCCD のような技術」は、解釈によっては暗号化技術など、非常に重要な技術を含むことになりかねない。これでは多くの分野のソフトウェアが適用が難しくなる、と猛反発を受けたようで(産業界だけでなく、Linux カーネルコミュニティも反対に回ったようです)、揉めに揉めたあげく現在の表現に落ち着いた、とのことらしいです。

WIPC? WIPC著作権条約第11条?

まずはちょっくら面食らうのが、

いかなる対象著作物も、WIPO 著作権条約(1996年12月20日採択)第11条の定める義務を充足する準拠法、及びそれに類する技術的保護手段の回避を禁ずる法における「技術的保護手段」とは見なされないものとする。

といういかにも法務文書的な言い回し。特にGPLv3は(何度か繰り返したように)特定の国の法によらない言葉を使うように注意深く書かれているので、さらによくわからなくなります。

そもそも WIPO というのはなんでしょうか。
World Intellectual Property Organization だそうで、国際知的財産団体とでも訳すんですかね(日本語名称調べる元気がない)。

その条約第11条というのは解説書に引用がありまして、

締約国は、著作者により許諾されておらず法によっても許容されていない行為をその著作物について制限する、効果的な技術的手段であって、この条約又はベルヌ条約に基づく権利の行使に関して著作者が利用するものの回避に対して、適切な法的保護及び効果的な法的救済を定めなければならない。

ここでベルヌ条約というのはいうまでもなく著作権に関する国際条約ですね。

んで、この条約を批准している我が国としては著作権法を平成11年に改訂したそうで、したがって準拠法は著作権法ということになります。
この点に関してはいろいろ規定が増えているのですが(例えば私的複製に関して、技術的保護手段を回避してと知りながら複製を行うことは含まれない、とか)、まあ著作権法を「技術的保護手段」で検索するといろいろ出てきます。

んで、GPLv3 では「こういう法律があったとしても、GPLv3 の成果物は『技術的保護手段』であると主張してはならないよ」と謳っているのですね。こうすることによって、「DRM 的ものを書くのは構わないけど、それを法で守らないということを保証しなさいね(ユーザの権利を守りなさいね)」といっているわけです。

ただし、問題は一番重大なポイント、第百二十条の二:

第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
  一 技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置(当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化した者
  二 業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行つた者
<略>

これが刑事罰であり、かつ親告罪ではないということです。つまり、検察が検挙しようとしたら、いくら権利者(ライセンサー)が「これは技術的保護手段ではない」と主張したとしても通らない可能性がある。これを以て解説書では「そのため、著作権法との関係では、民事及び刑事いずれについても、第1パラグラフ (= 「これは技術的保護手段ではない」といってはならない) の実効性には疑問がある」しているのでしょうが、民事においても実効性に疑問があるのはなぜなんでしょう……? ここ議論ではスルーしちゃいましたね。

不正競争防止法平成11年改正

著作権法の改正と同じタイミングで、不正競争防止法にも技術的保護手段の回避についての規定が導入されたそうです。読んでみると、どうも「不正競争」の定義に、技術的保護手段を回避することで競争相手の商売を阻害する(雑駁な言い方をしてますので詳しくは条文を参照してください)ことが追加されたようですね。

んで、これはWIPOの条約によるものではないので、GPLv3でいうところの「WIPO 著作権条約11条の定める義務を充足する準拠法」には当たらないが、「それに類する技術的保護手段の回避を禁ずる法」にあたると解釈するようです。

で、こっちについては刑事罰が存在しないため、GPLv3 第3条第1パラグラフの規程は有効ということになるみたいです。法律難しいなあ。


今回はここでおしまい。
いつもなら晩ご飯たべながらダラダラ雑談するんですが、私が早く帰らなきゃだったのでそれはなし。
おつかれさまでした〜。

*1:どうでもいいけど条文番号と違うナンバリングするの止めてくれないかな。>IPAさん