第9回 東京Basic Technology勉強会
例によって長文陳謝。
行ってきました。kwappa さんが主宰の東京Basic Technology勉強会、通称とべとべ。
今回のテーマは:
とのことでした。
最初に、kwappa さん、スタッフの yamaguchiintlab ことせんせーさん、準スタッフの akitsukada くん、フォローしていた georz さんに syumikko さん、会場提供をはじめとして様々に動いてくださった日本オラクルの yokatsuki さま、もちろんパネラーの皆様に心より感謝を。
上述のように、一歩踏み出すとキケンなテーマのイベントを積極的に行った点で、主催者の kwappa さんをはじめとするスタッフのみなさん、パネラーの皆さんの熱意と冷静さに経緯を表したいと思います。
今回は2部構成+1でした。
第1部 kwappa さんパート
デスマとかブラック企業についてのお話でした。
こちらについては資料も近日公開されるでしょうし、まあ私自身、この会社クソだ! と思うことはあれど世間的にはブラックではないだろうし、デスマも経験がないので詳細なコメントは省略させていただきます。
というか私は割と若いころから自分の能力があまり高くないことを自覚していたので、徹夜とかして頑張ってもどうせバグ仕込むだけでまったくいいことがないってことを割と早い段階で悟ってしまい、眠かったら眠くてもできる仕事(メールの処理とか)やって、それから寝ちゃって、翌朝起きて仕事を初め、モジュール出した日は早めに帰るとかそういう生活してたし、一番忙しかったときは一番面白い仕事してたときだから辛いとか感じないのよね(前述の理由で健康を害するほど仕事してなかったし)。
でもメンヘルについては kwappa さんのプレゼンに付け加えて確実に言えることがあります。
ネットから離れろ。
すぐに医者にいけ。
まずネット。これは自己診断ともからむんですが、コミュニティには俺メンヘル経験談を語りたくてしょうがない人がうようよいます。そしてそういう人たちがニセ医者になって不正確な知識を入れるんですな。これはぜんぜん人を幸福にしない行為だと思います。
それからメンヘルの初期症状でちょっと会社行けない日が続いたりしたとき。ついったでもなんでもいいけど、知り合いがデスマってて体調クソ悪いのに今日も帰れないよーとか書いてるわけですよ。そうすると非常に落ち込むのね。この人に比べると俺ぜんぜん苦労してないのに、なんでこの人は死ぬほど頑張ってて、俺は布団にくるまってネット見てるんだ。もう自分の存在を消したくなったりするわけ。
だから十分にメンタルが回復するまでは、ネットに触れることはあまりいいことではないと思います。
ということで唯一できる助言は「すぐ医者に行け」なんですが、この病気ほど医者の相性がある病気はないんじゃないでしょうか。だから拙速は避けたいし、「医者行け」という一言すら気軽に言っていいものか悩みますね。
それ以外で印象に残ったのは、
- エンジニアとアスリートを対比して話をしていたけれど、練習せず大会に出るアスリートはいないのに対し、知識ゼロでデスマに投入されるエンジニアってすごく多いですよね。
- さらにいうと、アスリートには「プロトレーナー」という「教えるプロ」がいるけど、エンジニアの場合、大抵、技術についてのプロはいるけど、教える技術についてはアマチュアしかいない。そういう技術を学ぶ場すらない。これはすごく不幸なことだと私は考えております*1。
- デスマーチから人が学べることがあるとすれば二つ。
- なぜデスマってしまったかの振り返りから、自分のやりかたの不備を見つけ出す
- デスマを「やりきった」ことによる成功体験
でもこれって「たまたまうまく学べた」場合であって、失うことばかり多くて途中でドロップアウトしていく人が多いということも忘れてはいけませんね。
- 観客側からのコメントで「労働基準法などの基礎知識を学んでおくことが大事」というのがありました。確かに。
あ、すごくどうでもいい話ですが、今回のお題の一つ「デスマーチ」を有名にした名著。
デスマーチ 第2版 ソフトウエア開発プロジェクトはなぜ混乱するのか
- 作者: エドワード・ヨードン,松原友夫,山浦恒央
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2006/05/03
- メディア: 単行本
- 購入: 9人 クリック: 355回
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- 作者: トム・デマルコ,ティモシー・リスター,松原友夫,山浦恒央
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2001/11/26
- メディア: 単行本
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けど、読んでるとなんかダメなんですよ。だってこれらの本に書いてあるいろんな話は、私に権限がないんだもん。
つまり私の直属上司、そのまた上の上司、さらにまた上、そして経営層までこういう意見を届かせて、こういった本に書いてあるようなプロジェクト運営を実現する。そこまで私はタフじゃないのです。その手前でメゲます。せいぜい直属の上司に「これって正論ですよね」「そうだよねーぼくもそう思うんだけどねー」といってもらうことしかできなくて非常に微妙というか。
その点、「ピープルウェア」のデマルコが書いた
- 作者: トムデマルコ,Tom DeMarco,伊豆原弓
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 1999/03/19
- メディア: 単行本
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関係ないけどデスマーチといえば私の脳裏に浮かぶのは、映画「フルメタルジャケット」
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2008/09/10
- メディア: DVD
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相手をたくさん殺し、自分も運良く生き残り、ミッキーマウス・マーチを歌いながら帰る。
軍隊というのはそういう組織ですが、エンジニアはそういう存在でいいのかしら。
第二部 パネルディスカッション
パネラーさんはどうせいろいろ露出されているようなので隠す必要はなさそうですが、一応 twitter id だけにしておきます。
設問は普通の自己紹介と「最高のデスマ体験と失ったもの・得たもの」というものだったのですが、失ったものは悲しすぎて私は書くことができません(T_T)のでお許しください。
cesare さん 自己紹介
フリーランスのプログラマ、Ruby on Rails や iPhone アプリの開発など
- 某ISPで10年ほど勤務したのち独立
- 一番ひどいデスマ体験:
- 隣のプロジェクトがデスマってた→さらにメンバー一人事故で脱落→「お前フォロー行け」
- 「いや、今の仕事は?」「両方」「……どっち優先するんですか?」「両方」
- 勤務としては過酷だったが、デスマというほどではない……かな?
- ただしその指示を出した上司への信頼関係は完全に失われた。
bash0c7 さん 自己紹介
昼は会社員、夜は勉強会などのフォローを業務とするフリーランス
himamura さん 自己紹介
H/W エンジニアで今は起業し社長。29歳で起業して20年間。中国にもブランチを立ち上げた
- 一番ひどいデスマ体験:
- 辛いというのは物理的な辛さと精神的な辛さがある
- 物理的な辛さ:150〜200時間残業を2年続けた でも意外と辛くない
- 精神的な辛さ:北京での立ち上げ 本当の意味で血を吐いた
- 得たもの:いろいろな意味で自分の限界がわかった
- 辛いというのは物理的な辛さと精神的な辛さがある
skc さん 自己紹介
IT コンサル経営
- ピアニストをめざし音大に→自分の腕前では超一流にはなれない→その道は捨てる→ネットバブル全盛なのでネット企業に行こう!→某(悪名高い)営業系企業へ→仕事とは無関係にPHPを勉強→面白そう→転職→社内教育もなにもなく実践あるのみだったがやりきった→外資の日本ブランチ立ち上げ手伝い→起業
- 一番ひどいデスマ体験:
- 500時間x3ヶ月、それを含んで400時間x1年
- PM入院、PL失踪、プログラマは自分一人
- 猛烈に仕事をしたが辛いとはそれほど思わなかった
- ただひたすら眠かった
- 勝ち得たもの
- 顧客からの信頼(あいつに頼めばなんとかしてくれる)
- やりきった自信
- ビジネススキル(交渉・提案力・モチベーションを維持するための行動心理学)
- とにかく頭を使った
- この結果、今までマネージャーをやったプロジェクトで人を潰したことはない(ヤバいと思ったら外れて貰ったりするのでドライだと思われているかもしれないが、それがベストだからやっている)。
お題1:経営者から見たデスマ
- bash0c7 さん
- 時間だけが貴重な自分の掛け金だという意識を持つ
- その時間を何にどう使うかというセルフマネージメントをする
- himamura さん
- ブラックかどうかは結局、上がケアしてくれるかではないか。
- でもケアされるのをストレスと感じる人もいて簡単にはいかない
- 仕事もできない、長時間働くこともしない、という人がチーム内にいると、その人の穴埋めに優秀な人材が使われることになってしまう。
- そこをマネージャ側としてはなんとかしたいが、そうするとマネージャ側が働きすぎになってしまう。
- skc さん
- 人間はどういう状態で人を尊敬するか
- リーダーシップを得るための二つの手法
- 共感 - 簡単に人を惹きつけられるが (Yes, we can!)、ちょっとしたきっかけで崩壊する
- 支配 - 力が必要だがなかなか揺るがない
- チームをどう作るか
- 共感モデルは経験的に3〜6ヶ月が限度
- 支配モデルの導入は必要
- どういう行動が評価され、どういう行動がダメなのかをクリアにする
- 例えば、「スケジュールが遅れる見込みです」と報告して遅れるのはOK。遅延を隠しておいてふたを開けてみたらできていなかった、はNG(マネージャ更迭もありうる)。
お題その2.若い人に向けてのメッセージ
- cesare さん
- ITの仕事は本当は人に幸せを与えられる、という第一部の言葉はその通りだと思う。
- が、現実的にはなかなか難しいところもあるのも確か。
- 今のぼくらの世代が若い人にとって楽しい世界、業界を作って行きたい。
- 若い人たちに対しては、自分の時間を使って楽しめることをしよう。
- bash0c7 さん
- 「デスマで成長する」ということに関しては懐疑的 (リスクが大きすぎる)
- 負荷をかけて成功体験を積み重ねて成長するというなら、もっと小さな粒度で行えばよいのでは
- 例えば「毎日18時には帰る」という目標(仕事を減らすという意味じゃなく)
- うまく行けば、業務の効率化とか見積りの正確さという成功体験が残る
- 失敗したら振り返りの材料になる
- 正確な作業見積り、作業計画といった訓練になる
- デスマとの付き合い方
- 付き合うな! 逃げろ!
- そのために普段の業務とは別の道を作っておく
- himamura さん
- 辛かったことは共有できるが、よかったことは意外と消えてしまう。
- ある程度の負荷は逃げずにチャレンジしてみることも大事なのではないか*3。
- skc さん
- ここのパネラーはみんな「やってきた人」
- その上に行きたいならもっと上を目指さなければダメ
- アジア圏の若いエンジニアは彼らの国のトップの大学を出てきて、非常にハングリー。そのままでは勝てない。
- 自分で自分の力を勝ち取るしか道はない
- 頭をつかえ。人の言葉で語るな。自分のありたい姿を描き、それを目指せ!
- ここのパネラーはみんな「やってきた人」
印象を二点……いや三点かな?
- デスマを避けるためには日頃からの自己研鑚が必要、みたいな空気があった気がしたけど、
- そういうある意味マッチョな人しかデスマを避けることはできないのか。
- デスマに限らず不条理な状況におかれて、なおかつ逃げ出すと自分の思い通りの仕事ができない(たとえば私はメーカー勤務だけど、メーカーにいるからこそやれることがある)状態というのがあったとします。んで勉強会とかに来てる人って真面目ないうか自分の技術ということに対して誠実な人が多いと思います(私は除く)。第一部の議論で「真面目な人ほどメンヘルになりやすい」というのがありましたが、となると「不条理だけど逃げ出せない」状態でつぶれやすいのは、むしろ勉強会とかに来ている人たちなんじゃないかと思っちゃったりするんですけど。
- 「マネージャーのデスマ」という考え方。非常に単純化しちゃうと、デスマを起こさないために管理職が仕事を抱え込んじゃう状態。とくに雇用者側の場合。被雇用者は法律が守ってくれますが、雇用者はそうはいかない。ので倒れるまでやっちゃう。しかし被雇用者は権利は主張して、マネージャが死ぬほど働いていることを理解しない。これは私のなかでは今までになかった概念でした。デスマといえば管理が機能してなくて下に皺寄せがくるパターンばかり考えていたのですが、逆もありうるということですね。ふむふむ……。
懇親会
お話しした内容。
- 企業のそもそも論
- マネージャのデスマ
- 上でも書いたけど目から鱗だったので himamura さんに話を聞きに行った。
- himamura さんの会社では社則を社員自分たちに作らせたそうな
- しかしそれでも、納期遅れの仕事をほっぽらかして有休取ってスキー行って、納期遅れたまま放置というのはどういう神経なのか。
- 遊ぶことは構わないが、デリバリーを守るためにどういうバックアップ計画があるのか、そういう姿勢を持って仕事に取り組んでほしい*4。
- 結局現状だと優秀な人が尻拭いをしていて、なんとも思わないエンジニアがいる。
- そこで結局、優秀な人間につぶれてもらっては困るので、経営陣も頑張らざるを得ない。
あと skc さんともいろいろお話しさせていただいてすごく有意義だったんですが、多岐に渡ってちょっと書きにくいので省略。ごめんなさい。
政治手法とマーケティング論の話とか、あとオフショアのエンジニアに対して3倍のコストの価値をどうやって出していくのかとか、財務会計やマーケティングを自分で知らなくても、知ってる人と仲良くなって知恵を借りられればいいよね、みたいな話をしたような気がするなあ。
ともかく Fun & Interesting 両方の意味で楽しかったです。
皆さんに感謝感謝!
2010.03.08 追記
Kwappa さんの記事がやっと書き上がったのでリンクしてトラバ。まあ「仮エントリ」を量産してる私は人を非難する資格はございませんですハイ。
*1:私はカヤックのインストラクター資格習得をめざしトレーニングをしたことがありますが、人にものを教えるというのはすごく難しいというのをその中で知りました。
*2:communication mistake というのは海外の企業が無茶を押し込んだり、頼んだ仕事ができてなかったときの常套手段ですよね。
*3:むろん、「ある程度」が「どの程度」かを見極めるのは難しいんですが。
*4:私自身も会社規程の夏休み前にリリース、という計画があったのに、ざっくり見積もって大丈夫、こことここを変更するだけだから余裕で間に合う、という気持ちで夏休みを先行でとってアメリカまで遊びに行って、戻ってきて作業に取りかかったら既存のコードが想像以上にわやくちゃで見積り完全に破綻して回りに大迷惑かけたことがあるので人のことは言えないですが。でもテスターチームとネゴって1週間遅れならなんとか日程にミートするという交渉して、会社に泊まって仕事してなんとか収めたので、尻拭いは自分でしてますですハイ。