おがさわらなるひこのオープンソースとかプログラミングとか印刷技術とか

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読書感想文:「グーグル ネット覇者の真実」スティーブン・レヴィ

ということでKindle Paperwhiteで読んだ本のレビューです。ありきたりですまんす。

グーグル ネット覇者の真実

グーグル ネット覇者の真実

激安セールのときに慌てて買ったんだけどいろいろ読む本が溜まってて年末の休みでやっと読了。いやー面白かったす。

著者のスティーブン・レヴィと「ハッカーズ」

私にとってレヴィといえば「ハッカーズ」に決まっておるのです。

ハッカーズ

ハッカーズ

とかいってたらこんなの出てる。なぜかKobo版しか出てこないけど、当然Kindle版もある。買っちゃうかも……というか今買った :)
[rakuten:rakutenkobo-ebooks:10155982:detail]
ソフトでおまんま食べてる、あるいは食べたい人で、もし読んだことがないなら図書館で借りてでもいいから読んだほうがいいすよ。
私的にはツボるエピソードが満杯なんですが、初期MITハッカーたちの奇態な生活っぷり、「フリーであること」へのこだわりなんてのもそうですね。
けど、オッサンになって染みるのは:

  • トラックの運ちゃんかなんかやってた人がシェラ・オンラインというゲーム会社に就職してアドベンチャーゲーム作成キットを使って作ったゲームが大ヒットして、それで自分才能ある!って勘違いしていろいろあって、結局ドラッグに溺れて云々、って話
  • 正統派MITハッカーのたしかビル・ゴスパーだったと思うけど、アポロの打ち上げに招待されて「俺達はMITのAIラボという自由な環境で世界最高のことをやってるつもりだった、IBM流にネクタイ締めてるダセー奴らには絶対できないことをやってるつもりだった。でも、そのダセー奴らが月に人間を運びやがった。自分たちはいったいどんな風に世界を変えたんだ?」って自答するシーン
  • Symbolics/LMI 闘争の間に RMS が立って孤軍奮闘するところ、そしてSymbolicsのトップが息巻いて奴を訴えるっていったときに「まあ待て、俺達の頭脳を結集した結果を奴は一人で解析してコピーしてるんだ。それには敬意を払わなくちゃいけない。まったく、あれを一人でやってのけるとはなあ!」ということになって目をつぶることになった話

ですねえ。フリーソフトウェアオープンソース、そういったことに関心があったりする人なら読まにゃ犯罪。……いかん、「ハッカーズ」のレビューではなかった。

で、「グーグル ネット覇者の真実」

最初この本を本屋で見かけたとき、素通りしかけました。だって「ネット覇者の真実」だよ? 見るからにダセーじゃん……が、著者を見て、げげ、スティーブン・レヴィじゃないの!
しかし我が家はタダでさえものが多いので、ビジネス書っぽい感じのものはどうもなあ……と思ってちょと見送っていたら、Kindle 版が出てるじゃありませんの。しかも特価で安い! これは当然ぽちるでしょう。

ところで原題なんだろうと思って調べてみたら、多分コレかな。

In The Plex: How Google Thinks, Works, and Shapes Our Lives

In The Plex: How Google Thinks, Works, and Shapes Our Lives

なんつか原題のいろいろ意味深なニュアンスをキャッチーなタイトルにミーハーな副題を付けて台無しにしてしまうのは日本のビジネス書にありがちなんですが (ダイヤモンド社のウォズの自伝とか酷かったよなあれは)、まあこれぐらいなら我慢しましょうかね。はぁ。

これはすごい!

グーグルという会社はいろいろ毀誉褒貶のある会社ですがそれはまあ置きましょう。つか、私そういうことわかんないし。
すごいのは、スティーブン・レヴィはこれを書いたときには外部の雑誌記者に過ぎなかったわけで、それに対して「アソシエイト・プロダクト・マネージャ (APM)」の研修プログラムへの動向を許可した上、さまざまな内部ミーティングへの参加を認め、なおかつ内外のグーグル関係者、元関係者その他への広範なインタビューを許諾したグーグルという企業と、その「ジャーナリズムへの信頼」に全力で応えたレヴィの筆力です。

グーグルがいわば「データこそ命」「ネットワーク上のデータをかき集めれば、自分の思うところを手助けしてくれる *人工知能* を作ることができる」という素朴な動機からスタートしたこと、ページランクというクールでスマートなロジック、クリックを収益に変えていく広告システムのできるまで、「大学のキャンパスのような」雰囲気を作るための工夫、創業者二人がモンテッソーリ教育を受けたという事実と「前例にとらわれない」大胆なビジネス、一方で巨大化していくグーグルという企業がどうやって「グーグルらしさ」を保とうとあがいたか、中国進出と挫折、「グーグルブックス」に代表される法務闘争、とくに独禁法に関わる部分、もちろん AndroidYouTube といった企業を買収した経緯などなど。そして、これだけ成功を収めた会社がなぜ、本書の原著出版の時点ではソーシャルネットワーク上ではフェイスブックの後塵を拝していて、挽回の手が打てなかったのか、などなど。
その筆致は決して感情的ではなく、当時の関係者から丹念に拾い集めた証言と客観的なデータを示しながら、「なぜこうなったのか」をきちんきちんと分析するレヴィの文章にはグイグイと引きこまれます。逆にいえば、それだけの材料を提供したグーグル側にもまた感心するわけですが、だからといってグーグル賛美という感じにはまったくならないところはやっぱり凄いですね。

面白いものは面白い

だいたい私は読書感想文というのがあんまり得意じゃなくて、面白いものは面白いんだよ、それ以上何がいるのさ、というタイプなのですが、まあそういうことです。
この本を読んだからといってグーグルのような成功を収められる何かヒントが得られるわけじゃないと思います。そういう「分かりやすいビジネス書」をお望みの方はそもそも本ブログとか読んでないでしょうから他行きましょうねっと。
二人の創業者、ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリン、そして長らくCEOを務めたエリック・シュミット、そして多くのグーグラーたちが、苦労して考えてあるときは成功してあるときには苦い水を飲んだ、そういう「ストーリー」を楽しみたい人なら、本書は最高の一冊だと思います。


しょぼい読書感想文でサーセン
明日はなにしようかな。Ubuntu の BluePrint を印刷のパースペクティブで振り返る的なことでもするかね。