MAM第7回:アートと知的財産権:クリエイティブ・コモンズの新たな役割(ローレンス・レッシグ講演会)
うっかりブログ書かないでいたら次のイベントが来てしまい玉突き状態。
2009年5月1日に、元 FSF の顧問であり現 Creative Commons の顧問でもあるローレンス・レッシグ氏の講演会があったので行ってきました。
MAM とは Mori Art Museum でして、森美術館はアート周辺の講演を定期的に行っており (MAM アートコース)、今回はその第7回目とのことです。アート方面の方は他の講演会もチェックされてはいかがでしょうか?
なおこのイベントの存在は Debian Maintainer であり Debian JP および Ubuntu JP メンバーのやまね (Henrich) さんに教えてもらいました。感謝感謝。
結論から言えばすげー面白かった。興奮した。
レッシグといえば 2002 年のオライリー・オープンソースコンベンションの招待講演 "Free Culture" で有名だけど、こちらが開発者向けだとしたら、今回の講演はアートよりというか、むしろボカロとか絵とか書いてる人に聞いてもらいたい講演だったっす。
というかレッシグのプレゼンスキルは神。
多分同じような講演を何度もやってるんだろうけど、キーワードをガンって投げ込んできて人に印象づける。
悔しいのは著作権がらみだから英語だとわかんないかなと思って同時通訳で聞いてしまったこと。当然同時通訳で単語が出るタイミングはレッシグ自身が喋るタイミングよりあとなので、プレゼン資料とタイミングがずれてしまい時折却って分かりにくいことがあった。発話も明瞭だし非常にわかりやすい言葉遣いをしてたし、全部英語で聞けばよかったよ……。
三つのストーリー
トマス・ジェファーソン(第三代アメリカ大統領にして独立宣言の起草者)の事例
- 彼はフランス生活当時、ヨーロッパとアメリカの文化の厚みの差を幾度となく感じた
- しかしアメリカには素晴らしい自然がある
- それを言っても誰も信じない
- そこでアメリカから巨大なムースの剥製を取り寄せ家の前に置いた
言うより見せることの重要性
文化の破壊:Art の受身の消費
- ラジオ・レコード普及以前
- 若者たちが集まってみんなで好きな歌を唱和
- 音楽とは消費するだけでなく生み出すものでもあった (READ/WRITE)
- レコード普及後
- 買ってきたレコードをただ再生するだけの文化 (READ only)
READ/WRITE culture vs. READ only culture
著作権について
(不法)ダウンロード
- READ only 文化
- Cost > Benefit
Creative Commons は反著作権ではない
- アマチュアには自由を!
- プロには保護を!
歴史的振り返り
- 2004年:READ/WRITE 文化の復興
- 2008年:プロとアマチュアのハイブリッド
- 経済の新しい可能性
- お金 (今までのプロのための経済)
- 共有 (アマチュアの経済。しかしお金とぶつかると壊れる可能性もある)
- バーやボーリング場:共有の場を提供しながらお金を得る=ハイブリッド
- 経済の新しい可能性
ハイブリッドの一つの例:MS Community Technology Group (↓など)
http://social.msdn.microsoft.com/Forums/ja-JP/slpsonlineservice/threadsMS の商品のサポートをボランティアたちがやっている
MS は場所を提供するだけで、自分たちの商品の価値を高めることができる
ハイブリッドについて考察
- ハイブリッド (RW/RO) のための法整備は行われていない
- そもそも著作権 (= copyright) とは「コピーを作る権利」が語源だが、PC 上では利用すなわちコピーとなる
- そこで:
- まず法による規制を受けないところを理解すべき
- それから法のコントロール化にあるが、問題なく使用できる部分 (fair-use、例えば著作物の常識的な引用など) を把握
著作権法は Remix について考えられていない
根本的な変革が必要
(ジェファーソンのように「ムースを見せる」ことが大事!
ムースの例?
- THRU-YOU.com
- YouTube の動画をくっつけて新たな動画を作るシステム
- 元画像の権利関係によっては合法ではないかもしれないが、非常に素晴らしい作品を生み出せる
我々に何ができるか
- 著作者が不明なもの
- 扱いを決めていく
- copy (複製) という言葉を捨てよ
- コンピュータの時代、使うだけですでに copy
- copy ではなく use of contents
create | remix | |
professional | copyrighted | mixture |
amature | mixture | free |
- 不法コピー
- 何も知らずにコピーしてしまう子供たちを糾弾すべきでない
- なにか新たな提案をすべき
少なくとも STAR WARS mash up *2 のように
「すべての mash up 作品は Lucas のもの」
などということは馬鹿げている!
Creative Commons
- サイトはこちら (日本のサイトはこちら
- READ only culture だけではなく READ/WRITE Culture の発展にも寄与する
- Professional には保護を、Amature には自由を
- さまざまなオプションの提供 *3。ただし必ず BY (だれの著作物か) は明確にする
活用案
- 例えば美術館は普通は READ only culture
- しかしある展示物を CC ライセンスとして、READ/WRITE culture として展示するのはどうだろう?
- Learn and Engage
- Engage is Free!
Q&A
- Q
- 日本のコミケ文化が守られているのはなぜだと思うか?
- A
- コミケというか日本の同人誌文化は非常にすばらしいと思っている。一説には日本にはアメリカほど弁護士の数がいないからと聞いたことがある*4。しかしその状況がいつまでも続くとは思えない。
- Q
- 一般に著作者はフリーライセンスにすると利益が落ちると考えると思うが、フリーライセンスをチョイスして利益が上がった例はあるだろうか?
- A
- 南アフリカの某大学で、論文集を印刷して配布していたときより、PDF 版をフリーで配り、なおかつ印刷版を併売したときの方が売上が伸びたという事例がある。これは PDF 版で価値を認めた人間が印刷版を注文したということだと思う。
同じように、すでに知名度があるアーティスト、たとえばマドンナは CC ライセンスにしたところでアルバムの売上は伸びないだろうが、まだメジャーでないアーティストが CC ライセンスで作品を提供することで知名度をあげることを試してみてはどうだろう。CC プロジェクトはすべての人に CC ライセンスを使うべきとはいっていない。
ただし、例えば社会的に意味があること、教育であるとか保健であるとか、そういった有益なリポートを有償の雑誌で一部の人間にのみ販売するというのはよくないと考えている。そういうものこそ CC で配布すべきだ。
- Q
- ヨーロッパの現状はアメリカよりさらに悪いようだが*5。
- A
- 私の専門からするとヨーロッパは非常にロビー活動が強く、政治と民衆の希望が乖離しているようにみられる。そこで一部の北米の企業ではヨーロッパでロビー活動を行って保護主義的法案を作らせ、それを既成事実として北米での既得権保護をしようとしている。
- Q
- CCでBYが必須なのはなぜか? 日本のアマチュアの間ではCCは使いにくいという理由で別のライセンスを作ることが多いようだが、その一つがBYが必須ということにあるように思う。*6
- A
- CC としては著作者の98%がクレジットを書き残したいという調査がありそれを尊重した。また、独自ライセンスは CC とバッティングすることにより remix / mash up を難しくしてしまうので、なるべく用いない方が望ましいと思う。
- Q
- 原著作者はフリーライセンスにより彼らの利益が失われるのではないかと恐れている。彼らを説得する方法はあるか?
- A
- フリーライセンスによって利益を損なう可能性があるのは原著作者だけでなく印刷業者やレコード会社、流通などもいるだろう。それに比べれば、原著作者はこの講演で述べてきたような利益を享受できる。だからまず原著作者にターゲットを絞り、フリーライセンスの普及に努めるべきと思う。
全体を通して
いやーホントにレッシグのカリスマ性はすごかった。
論旨明解、ビシっと一本筋が通っている。
冒頭にも書いたけど Free Culture はオープンソースのプログラマに大して「君たちの今享受してきた、オープンなソースをみんなでハックするという世界は危機に晒されているよ? それに対してなにをしてきた? これからなにができるの?」という問いかけだったのに対し、今回は「mash up や remix という概念が当たり前になってきた今、著作権 (= copyright = コピーを作る権利) という概念を根底から考え直すべきなんじゃないのか」という話で、論旨は一緒なのだけどベクトルが違って、今回の講演は非常に面白かったと思う。
オイラはニコ動とか全然見ないけど、ニコ動は YouTube よりもある意味すごい mash up とかの世界だとオイラは見てるのね。
だから今回の講演で、そういうところで作品を発表してる実際のアーティストたちの質疑応答があれば面白かったな、とちょっと感じた。
非常にエキサイティングな講演だったのでぜひ Free Culture みたいな形で公開していただきたいですが、それまでの間、このエントリが彼のトークの十分の一も伝えることができているかは分かりませんが、参考になるとうれしいです。
Debug Hacks 刊行記念トークセッション「よしおかひろたかとミラクルな仲間たち、デバッグ道を語る」
ということで敬愛するよしおか (id:hyoshiok) さんとその仲間たちのお話が聞ける場だということで行ってきました。
とっても面白かったよ!
著者でありスピーカの大岩さん、大和さん、吉岡さん、吉田さん、安倍さん、コントリビュータの島本さん、面白いお話をありがとうございました。
またこの素敵なイベントに会場をご提供いただいたジュンク堂のみなさま、オライリー・ジャパン(以下オライリーと省略します)のみなさまにも感謝を申し上げたいと思います。
内容についてはよしおかさんのブログ d:id:hyoshiok:20090512#p1 にスライドが上がっているとおり、Making of Debug Hacks という感じの内容でした。
技術者が本を書くにはどうしたらいいか、いわば技術書 Hacks といった内容は他ではなかなか聞けないことだったと思います。
Speaker
当日お話いただいたのは次の5名になります。
- 大岩さん:Debug Hacks 発起人の一人
- 大和さん: 〃
- 安倍さん: 〃
- 吉田さん:仮想化まわりで引っ張り込まれた
- 吉岡さん:取りまとめ役、Overview など。今回のイベントの総合司会
- 島本さん:日本を代表するカーネルハッカーの一人。Contributor として参加
あともう一人 Contributor としては同じくカーネルハッカーの美田さんという方がいらっしゃいますが、残念ながら会場にはお見えになっていませんでした。
きっかけ
2008年5月のこと
- Miracle Linux の中で Google の 20% ルールの適応を検討していた*1
- 大岩さん:
- やるとしたらソフトウェア開発にはあんまり興味がない
- 本を書こう!
「ミラクル出版局」発足
- 当時、大岩さん、大和さん、安倍さんは隣同士の席だった
- 盛り上がる
- とりあえず会議してみようということで 5/19 サイボウズで会議予約
- 会議名「ミラクル出版局」
- 5/26〜30 第2回〜第5回
- すごい盛り上がり
挫折と復活
話し合いの結果「これはいける!」となり、
めげずに 5/28 社内 ML で参加者募集
- 6/5 吉岡さん、吉田さんが加わる
- 時系列が前後するが8月には Contributor が加わっていただくことも決まる
Debug Hacks ついに始動
- 6/6 オライリーさんと打ち合わせ
- 他の出版社さんと比べると非常に前向き
- 発売目標もここで仮決め (新人が多い4月)
- これもオライリーさんからの提案だったとか。
- 実際の発売は 4/25。ギリギリセーフ!
- 社内執筆ガイドライン確認
- これは前述の id:hyoshiok さんのブログ d:id:hyoshiok:20090512#p1 に詳しくかいてあります。
- 6/12, 6/20
- 目次作り込みしてオライリーさんに発送
- 社内稟議の結果待ち
- だいたい2週間と聞いていたのにこないので焦る……
- でも3週間ちょいで 7/22 GO サイン!
コンセプト
まずは "Debug" に絞る
ボツネタ
- タイトル
- "Linux" Debug Hacks
- Linux のことしか書かないんだったら……と今でもよく言われる
- でもこういうのは語呂大事だし
- "Linux" Debug Hacks
- 表紙
いざ執筆
- 原稿管理はgit だろ!(by 吉岡さん)*2
- 最初は知識もすでにあって書くことそのものが楽しい
- でもだんだんプライベートをこれに捧げすぎて燃え尽きてくる
- 書く内容も難しくなるし……
- 毎週月曜編集会議
- Q&A がすごい面白い
- 本人には当たり前な切り口でも、なぜそこからデバッグを開始したかというのは非常に現れにくいノウハウ
- これを引き出せたのはすごい価値!
- Remote での執筆(島本さん)
- git サーバは Miracle Linux 社内にあったので進捗が見え辛い
- マージ作業は安倍さんにお任せ
- 時差がつらい
- ネットだけでのやりとりだと、体調くずしてネットにアクセスできなくなると非常に怖い
- git サーバは Miracle Linux 社内にあったので進捗が見え辛い
いよいよファイナルステージ
オライリーさんからは
「2月中に原稿をいただかないと、4月に本は出ませんよ!」
とキツく言い渡される
- 2/11(祝日)大校正大会
- 章立て変更
- 表記揺れチェック (用語統一)
- 用語集・索引の作成
- 「校正」の範囲越えてね?
- 紆余曲折あって2/24に初稿提出
- 3/16 再稿提出
- 4/20 オライリーさんに見本届く
- 4/21 Miracle Linux に見本着 → 打ち上げ!
- 4/25 発売!
Debug Hacks Conference 2009
- もちろん Debug Hacks の発売記念イベント
- 100 人で募集かけたら即日で埋まってしまった (^^;)
- 会場の IIJ さんに掛け合い追加で 40 席確保
- 大盛況!
Q&A
- Q
- どの Hack が誰の手によるものかは分かりますか?
- A
- 巻末の Hack 一覧に書いてあります。
- Q
- 何社ぐらいの出版社に声を掛けたか?
- A
- 一桁ぐらい。ただし、今ひとつ反応が悪かったのはマーケティングの問題かもしれない。編集者にまで思いが伝わっていなかったのかもしれない。他の出版社でも編集者にはこの本を出したかった人はいるかもしれない。
- Q
- 社内リソースの流出などについては問題にならなかったのか?
- A
- オープンソースの世界でのデバッグのノウハウは会社ではなく開発コミュニティに帰属するものだと思う。
- Q
- お金の分配については?
- A
- ページ数か Hack 数か、とにかく印税を比率で分配した。
- Q
- 校正で用語統一を行ったということだったが、最初に用語辞書を作っておくなどの工夫はされたのか? 編集さんからは初稿提出前に指導はなかったか? 社内マーケなどからのチェックはあったか?
- A
- 用語辞書は一応作ったのだが、各人書くのに一生懸命で守られなかったところはある。編集・マーケとも特にチェックはなかった。
- Q
- フリーライセンスで配るようなことは考えられないか?
- A
- 一般書店で入手可能なこと、参照しやすいこと、宣伝効果などを考えると書籍という形態はまだまだ意味があり、その形態にお金を払うと考えてほしい。また、デバッグのノウハウなどについては折にふれブログで公開しているので、Debug Hacks の形態にこだわらなければ無償で読むことができる。
- Q
- Private との兼ね合いはどうしていたか?
- A
- (大岩さん)一人なら折れていたかも知れないが、チームなので頑張れたところがある。
(大和さん)週末早起きできる体質なので、奥さんが起きてくるところまでが勝負だった。
(安倍さん)家族が本を書くということにまるで理解がなかったので、土曜の夜ぐらいしか時間が割けなかった。しかしそれもやりすぎると、日曜日の午前に付き合ってくれないと家族の視線が厳しいのでつらかった。
(吉田さん)独り身なので却って緊張感を保つのが難しかったが、月曜の編集会議はそういう意味でよかったと思う。
(吉岡さん)私はぜんぜん緊張感を感じなかったんですが……(会場爆笑)
サイン会などなど
ということでサインもらってきました。
Tシャツは、いやほらオレ現役のプログラマじゃないでしょ? だから身を引いたんです、とかいうのは嘘で、じゃんけんにまけただけです。
ちょっと面白かったのはオライリーの編集さんと話せたことやね。
印刷業界の話とかいろいろ聞かせてもらった。
「展示会とかいらしていただけるならもっと踏み込んだ話ができると思いますが」とか言ってもらってしまった。どうしよっかな。オイラの仕事ではないので人に振っておくか。振った人が人脈をいかしてくれるかどうかはわかんないんだけどねー。全部自分で抱えるわけにはいかないからさっ。
ともあれ楽しいイベントでした。
関係者のみなさまに再度ありがとうございますです!