2011年のLinux印刷事情をまとめてみたよ
いくや先生がデスクトップ事情についてまとめられた素晴らしいエントリを書かれたのでそれにインスパイアされてというか、書けといわれたよーな気がして(^^;
全体的に
残念なことに「ポンとつないですぐ使える」未来にはまだ距離はあると言わざるを得ません。基本システムはかなり整備されて来たので、あとは品質面ですね……特に GS は作りの複雑さと開発コミュニティの閉鎖性がかなり限界に来ている(気がする)ので、もうみんな PS すてて PDF にしようよ、Poppler を良くしていこうよ、と思ったりするんですけどね、なかなか難しいだろうなぁ。
プリンター側を見ると、電子写真式プリンターのローエンドでなおかつ PS 標準の国内モデルというのがいくつか出てきたのが面白いですね。
2011 年の CUPS 事情
あくまでも個人的な感触ですけど、「CUPS は Apple のもの」という色が強く打ち出されたのが今年という印象があります。いや、Apple Contributor Agreement へのサインを求められるようになったのは去年からかもしれないけど。
一つの象徴的な出来事は、CUPS 1.5 リリース直前に「翻訳どうするの? 手伝おうか?」と聞かれた Michael Sweet が「いや、今回は自分たち (= Apple) でやるから」と言い切ったこと*1。
そしてこれは4月の Printing Summit での決議事項だったわけですが、CUPS 1.6 を目指して開発されている trunk から Apple が使っていないフィルター群である:
- imagetops
- texttops
- pstops
- bannertops
などの PostScript を処理するフィルター群と、シリアル/パラレルポートのバックエンドが削除されたというのも「ついにこのときが来たか」という感じではあります。
Mike の説明によると「Apple はこれらのフィルターも使ってないしシリアル/パラレルを持ったハードウェアを提供していないから、QA でテストできない。テストできないものをリリースはできない」ということです。それは一理はありますが、別の言い方をすれば「CUPS はコミュニティベースの開発でメインコントリビュータが Apple」ではなく「CUPS は Apple が開発し、コミュニティがコントリビュートできる」という色をはっきりと打ち出したのだといえるでしょう。
ただし、これらのコンポーネントは CUPS と密結合なわけではなく別に開発可能なので、今のところ OpenPrinting がリポジトリを持ち、開発主管になるということになるようです。そういう意味で、今すぐユーザビリティに変更が出るわけではありません。ただ、バグレポートがより難しくなる(Mike が「それは Apple の問題ではない」といってクローズする可能性がある」とか、もし万が一 Apple がデスクトップ印刷の進化について興味を失ったら(パーソナルコンピューティングは iOS で十分という結論になったら) どうなるかとか懸念はあるので、今後注視していきたいですね。
なお 2012 年の話になってしまいますが、OpenPrinting としてどうするか、それをうけて Ubuntu でどうするかという話は Ubuntu Precise の BluePrint で議論されてます。興味がある人はウォッチするとよいかもしれません。
Ubuntu 11.04 でのプリンタードライバーの自動ダウンロードの実現
これも今年の Linux 印刷における大きなニュースです。詳しくはプレスリリース をご覧になったほうがよいと思いますが、ドライバーをベンダーから直接ダウンロードして利用する仕組みをディストリビューション側で準備するということですね。
もちろん、HPLIP のように dfsg 的にフリーにしてパッケージングして各ディストリビューションのルールに従って入れるというのが本筋だといえばそうなのですが、プリンタードライバーというのは各社守りたい知的財産権があるようで*2、そうすると全部とは言わず一部はプロプラにしたいと主張する勢力があるんじゃないかと。あるいはオープンでもいいけど、ディストロ向けにパッケージして配布するなんてできないとか、いろいろ理由はあるわけです。で、それを正面突破するよりは、ベンダーからドライバーを引っ張ってこられる現実解があったほうがよくない? というのが、この機能のミソかと。
現在のところ使っているのはディストロとしては Ubuntu、サポートベンダーはセイコーエプソンだけなのですが、もうちょっと広がってくれるとうれしいなあ。ベンダー側としては C 社さんとか BR 社さんとかが頑張ってくれるとうれしい。
GNOME 3 の「印刷設定」
これは小ネタなんですけど、GNOME 3 で「印刷設定」が追加されました。これは旧来の system-config-printer の直接の置換えではなく、GNOME 3 の experience に従って一部の印刷設定を提供しようというモノのようです。
今のところ採用しているのは Fedora で、Ubuntu は 12.04 でも見送り、openSUSE は YaST があるので不要、あとは調べられてません。Ubuntu は今のところ「積極的に不採用」ということですが、果たしてどうなりますやら。
カラーマッチングデーモン colord と gnome-color-settings
今年は割と「カラーマッチング元年」という感じで、各印刷モジュールのカラーマッチング機能の実装が大きく広がりましたが、その一つの要因が colord および gnome-color-settings です。これらはシステムワイドに ICC カラープロファイルの管理を行うための仕組みで、詳しくは colord のプロジェクトページをご覧ください。
Cloud Print パッケージ、AirPrint 対応など
詳細は書くの疲れてきたのでヤメますが、CUPS ベースのシステムでこれらのクラウドやモバイルからの印刷ソリューションが普通に使える(サーバーになったりプロキシーになったりできる)というのは楽しいことではあります。
個人的にはデバイス側のリソースが小さい AirPrint より、クラウドの向こう側になる何かをモバイルからつっついて印刷する Cloud Print のほうが可能性が大きいので、こちら方面がもっともっと進化するといいなぁって考えてます。
年末のビッグニュース
一部の人はご存知かもしれませんが、これまでセイコーエプソン製プリンターの配布を行っていたアヴァシスさんから驚きのプレスリリースが出てました。Linux のプリンタードライバー配布をアヴァシスさんからセイコーエプソンさんに移管するというものです。
まぁ、今までもアヴァシスさんで配布しているプリンタードライバーのうち、最近のものはセイコーエプソンさんで開発されていたので、時間だけの問題だとは思っていましたが、プレスリリースが出てたというのは知らなかったのでちょっと驚いたのは確かです。
これは勝手な想像ですけど、なぜ今までセイコーエプソンさんで開発したドライバーをアヴァシスさんで配布するという形をとっていたかというと、歴史的経緯も大きいでしょうが、品質保証の問題も大きかったのではないかと思います。つまりベンダー製ドライバーをベンダー自体が配布するということで、いくら「無保証」といってもある程度のサポートを求められる、そうなれば社内でプロダクトレベルでガチガチのテストを行う必要が生じ、結果としてデリバリーまでに時間がかかってしまう。変化が早い FLOSS デスクトップに置いてはこれはかなり辛い状況です。ので、アヴァシスさん経由で配布していたのではないかと私は思っています。
ここにきてセイコーエプソンさんに移管されるということは、社内的に FLOSS のスピード感を保ちつつリリースできるというプロセスが確立してコンセンサスが得られたということなのかなと思いますので、非常に喜ばしいことではないかと思っています。これによって各ベンダーが刺激を受けてくれればよいな、と切に願います。
繰り返しますが、これはあくまでも(裏付けのとりようがない)私の想像ですので、そこんとこご容赦。
終わりに
今年は大きなプログレスがなくて終わってしまいましたが、来年はいろいろ面白いことが計画されています。具体的には2012年4月の Printing Summit で見えてくると思うので、そのときにまたご報告できたらよいなと。
それでは良いお年を!
*1:結果、UI としてはまあいいとして、ドキュメントは Overviews すら訳されてないっつか、「CUPS 1.4 の新機能」だけそのまま日本語で残ってて、あとごっそり英語とか酷い出来になってたりするわけだけど、あそこは Apple (Mac OS X) の experience に関わらないところだから放置されたとかきっとそういう感じなんだよなってのは私の Apple 嫌いによる偏見かもしれません。というか Apple はもともと、ドキュメントの翻訳を真面目にやらない会社ですしね (MS も機械翻訳そのままとかあるけど、SDK とか TechNet の主要なドキュメントをちゃんと訳してるのはさすが)。
*2:勝手な想像ですけど、ぶっちゃけやろうと思えばリバースエンジニアリングできてしまうわけで、それが本気でされていないということは大した技術じゃないわけで、隠すほどのヒミツがあるとは思えないんですけどね。むしろ他社のパテント踏んづけてたときにそれがバレるリスクのほうが大きいのかもしれないw