レビュー:「ビジネスパーソンのための契約の教科書」
旅行中で大したネタが用意できなかったので、前から書く書く詐欺だった
- 作者: 福井健策
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/11/18
- メディア: 新書
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大事なことははじめに言いましょう
「ビジネスパーソンのための」とありますが、すべてのソフトウェア技術者は読んだ方がいいと思います。
それは、この本が「契約」ということを通じて「法律的ものの考え方」を伝えてくれるからです。そして、法律的ものの考え方、リーガルマインドとでもいいましょうか、というものはこれからのソフトウェア技術者に必須のものになってくると思うからです。この件は機会があれば*2。
そして何よりこの本はめちゃくちゃ面白い。同じことを学ぶなら、面白い本で学んだ方がいいにきまっております。
著者の福井先生について
福井先生の人となりを私はそれほど存じ上げているわけではありません。ただ、著作権についての二つの著書:
- 作者: 福井健策
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/05
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著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A)
- 作者: 福井健策
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/01/15
- メディア: 新書
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- 一つ一つの例がとても身近で分かりやすい
- 現行法について論ずるだけではなく、そもそも著作権とはなんであるかを述べ、さらに今の社会に応じた著作権のあり方について問題提起もしている
- もちろん「こういうことは今の法解釈だと著作権侵害になるよ」ってアラートを出してくれることも大事だけど、それだけじゃちょっとつまんない
- ユーモアたっぷりの文章
- なにより著作者・表現者に対する愛情を感じる
つーことですっかりファンになり、ついったでフォローさせていただいたら、あーこの先生もともと演劇とかご趣味でいらっしゃるのですねー。ご専門もエンタテイメント系だとか。目線が「著作権とか何がうれしいの?表現者はなんか幸福になるの?」という素朴ともいえるところまで降りているのはそーゆーことなのかしら。
で、その福井先生が「契約」について語るというのだから、これは読まなければなりますまい。
全体を通しての感想
私のおすすめとか信用に当たらない、という方、ぜひ本屋さんに行って、帯にある「あなたの契約力判断テスト」をやってみて、それから「はじめに」だけでも読んで見てください。必ずやレジに持っていきたくなると信じます。それぐらいこの「はじめに」は我々の日常的な「契約」についての感覚を掴んでいると思います。
さて内容ですが、ご自身でも書かれていますが「前半はごった煮のコラム風」「後半は実務ガイド風」。
途中でがらりとカラーが変わる本は得てしてなんか一貫性がない感じに思えてしまうのですが、この本は (ひいきかもしれませんが) ごった煮のコラムの中で「こういう問題があるんだよ」ということを繰り返し提示しておき、実務ガイドの部分で「だから、こういう風な項目を盛り込むんです」とつながっているので、非常に読みやすい。
前半だけだと「じゃあ具体的に俺たちが契約書チェックする時とかどうすりゃええねん」となり、後半だけだと「なんでこう書かなきゃいけないのか、皮膚感覚でよくわかんないよ」となりそうなので、このハイブリッド構成は私のような素人が読むにはとてもいいなって思いました。
あとこれは結構細かい気配りなんですけど、実務ガイドのパートだけはページの小口の方がグレーにしてあって、ぱっと開けるようになってます。これはとてもいいですね。
そして最後をしめくくる第五章の『日本と日本人の「契約力」を高めるために』の「三つの、あまり新鮮味のない黄金律」。ここら辺の衒いかたが実にイイんですが、ここはハウツー的にいきなり飛びつかないで、ここまで本文を読んできて、溜めに溜めたところで読んで欲しいです。「新鮮味がない」からこそ、なるほどと膝を打つこと確実だと思います。
コラム部分の感想
けっこう書いちゃったので手短に。
- やっぱり例の選び方が秀逸。
- 日本発のコンテンツが契約によって活用できない例として、ウルトラマンとマッハGO!GO!GO!とか
- クリエイティブコントロールとかアサインバックとかフムフムな感じ
- ミュージカルの日本公演についてとかは「あーこんなことも契約に盛り込むんだー」ってことで単純におもしろい
- 出版社と著者の間は日本の慣習だと契約書を取り交わすことがなかったが、電子出版などの影響で状況は変わってきた。しかし「契約書を取るとかお前は俺を信用していないのか」と怒る作家先生とかいてなかなか難しい
- 有名なネットサービス (YouTube、Twitter、Facebook、mixi、ustream など) の利用規約一挙比較と、その中に秘められた罠(?)
- でも、コモディティ化したサービスの場合、文句があったにしても使わないという選択肢はないので、読まずに「同意」するのもしょうがないとかフムフム
- 日本人の持つ「契約よりも信頼関係」というマインドセットと、それが国際契約で問題になること
- 川島武宜先生という方の↓という本がすごくいいらしい
- 作者: 川島武宜
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1967/05/20
- メディア: 新書
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実務ガイドの部分
これは細々私が書く必要ないと思います。というのは、説明その物が十分に噛み砕かれており、私のような素人が抱きがちな「なんで契約書って甲とか乙とか書くんだろう」「……ものとする、って言い方はそう決まってるもんなの?」「覚書とか仮契約とかそーゆーのって意味があるの?」「捨印ってなんでどういう理由で押すの?」というような疑問に丁寧に、しかもユーモラスに答えているからです。
会社で他社と契約を結ぶとき、あるいは個人でなんらかの契約行為を行うときに、読む目が変わること請け合い。