プログラミング入門にふさわしい言語とは?【その1:プログラミングの喜びを知るために】
えーとやっと本題でございます。d:id:naruoga:20091008:1255009561 はこの話題の前振りとして、自分のポジショニングを明らかにしたいというところでして。
Wassr などで周期的に話題になるこの件ですが、毎回同じことを書くのも芸がないのでここでまとめて置こうかと思いましてね。
話の発端
大きく分けて二つあります。どちらも周期的に話題に上がります。
- 世の中には「C 言語を通っていないプログラマはダメだ」とバカにする風潮があるそうです。それは本当なのでしょうか。
- プログラミングの入門にふさわしい言語というのは存在するのでしょうか。するとしたらその理由はなんでしょうか。
なぜプログラミングを入門するのか
そもそも話はここから始まらないといけないと思うのですが、大抵の人がすっとばしています。それはきっと無言の前提があるからだと思うのですが、当たり前とはいえ確認しておきましょう。
- プログラミングの楽しさそのものを教えることで、無味乾燥な道具と思われがちなコンピュータを身近に思ってもらうこと。
シーモア・パパートの言うところの「構成主義」に基づく教育理論の一部といってもいいかもしれません。つまり与えられた知識を学ぶのではなく、自分たちで考え、物を作り、そこから得られるものこそが真の学びであるという考え。その道具としてのプログラミング。 - IT 分野の学徒となりたい、IT でご飯を食べたい、不幸にして? IT 業界に入ってしまった、などの理由で、プログラミングを覚えなければ将来の道が断たれてしまう。
ほとんどの人が 2. しか頭にないのではないかと思います。パパート直系の Squeak e-Toys や SCRATCH を擁する Smalltalker の中でさえ、「Non-Programmer にプログラムの喜びを教える」ということに関心を持つ人は少数派だと耳にしました。
んが、しかし、私はこれだけコンピュータが普及しネットワークがつながった今、プログラミングというあまりにも楽しいオモチャをプログラマだけが独占するのはほとんど犯罪に近いと考えているのであります。
のでまずはほとんどの人間が関心を持たないと思われる 1. から述べ、そのあとで職業としての学問*1、いやちがった、プログラミングはその次に述べたいと思います。
プログラミングの喜びを知るためのプログラミング入門言語
この観点は、先ほど述べたパパートの構成主義の実践としてのプログラミングであったり、あるいはプログラミング経験がまったくないけど Excel VBA や Notes の DB 設計を任せられたりしたアシスタントさんに対してプログラミングとはなんぞや、ということの導入にしたり、といった目的が考えられるでしょう。
求められる要件はつぎのとおりでしょう。
- 環境作りに苦労しないこと。
- コンパイル、リンクなどの「おまじない」が不要なこと。
- できたプログラムが一目で面白いものであること。驚き、喜びを与えられること。
- 直感的でわかりやすいこと。
- 日本語のドキュメントが充実していること。
- Windows で動作すること。
- 可能ならば他のプラットフォームでも動作すること。
最後の要件は泣く泣く付け加えたのですが、多分非プログラマが所有している環境は圧倒的に Windows が多いだろうと思われるので……。
逆に、以下の点はさほど重要でないと思われます。
- 作ったプログラムが実用的であること。
- プログラムのパフォーマンスやメモリ使用量などの非機能要件。
以上を鑑みると候補は以下のようになってくるのかな、と思います。
なおこれは偏見入りまくりの私見なので、人それぞれ考え方の違いはあると思います。あらかじめご了承ください。
SCRATCH
http://scratch.mit.edu/
MIT メディアラボ発、シーモア・パパート、アラン・ケイ直系とも言える子ども教育用プログラミング環境。ソースコードを一切書かない、パレットを並べてプログラミングをするというインド人もびっくりな環境。
この連載が参考になると思います。
マウスだけでもプログラミングできる!(1):非プログラマのためのプログラミング講座
マウスだけでもプログラミングできる!(2):Scratchプログラミングの二歩目、自由な動きを付ける
この連載自体、ここで話題にしていることがまさにターゲットなので、この項目を読んでいる人にはご一読を勧めたいですが、「とにかくプログラミングの喜び、楽しさを教える」という点では大本命だと思います。
各所で行われている (関東だと川口の「メディアセブン」さん) SCRATCH を使った子ども向けコンピュータ教育の現場を後ろから見ているだけで、彼ら彼女らがどんどんプログラミングの概念を身につけていくのが分かると思うので、こういう「プログラマじゃない人のためのプログラミング教育」に興味がある人は見学してみるといいんじゃないかなぁ。
【利点】
- インストールは簡単
- マウスクリックだけでプログラムが可能
- 絵や音をマウスクリックやキーボード操作で動かせるインタラクティブ性が人を惹きつける
- 条件判定、ループなどといった概念も身につけられる
- 工夫すればアルゴリズム教育なんかもできるはず
- 公式ページによる交換、コミュニケーション
- 電子回路やロボットとの連動が可能
- マルチプラットフォーム対応 (Windows, Mac OS X, Linux)*2
- @IT で連載してる (^^)
【欠点】
- 他のプログラミング言語へのステップアップに工夫が必要
- 日本語のドキュメントはまだ発展途上かな?
- 本は一冊出ましたけど。なかなかいい本です。買ってないけど
スクラッチアイデアブック―ゼロから学ぶスクラッチプログラミング
- 作者: 石原正雄
- 出版社/メーカー: カットシステム
- 発売日: 2009/01
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- 教育事例などは増えつつ有るけどまだまだ
Squeak Etoys
Smalltalk のフリーの処理系 Squeak にのっかった SCRATCH みたいな環境。というのは乱暴か。時系列的には e-Toys の方が先。
ただし Squeak の場合は最終的に Squeak の世界に降りてこられてソースをかけてしまうので、SCRATCH ほどの純粋さに欠ける気がする。
こっちの方が古いのでノウハウはたくさんあるけど (前記ページに子供向け教材とか載ってるし)、純粋に非プログラマ向けのプログラミング入門環境、という意味であれば SCRATCH の方が(僕は)いいと思うので、利点、欠点は省略します。
なでしこ
日本女子サッカー代表とは関係ないです。けっこう有名なので私がくだくだ書く必要はないと思いますが、「日本語でプログラムが書ける」が一番のウリでしょうね。
実はあんまり知らないので嘘書いたら誰か指摘くださいなのですが、Windows に特化して、Word/Excel との連携機能もあって、定形業務を自動化する機能を持っています。文法も(日本語であるということ以外)それほどとんがっていないので、SCRATCH などに比べると「実用的」「他の言語への移行が容易」と言えるかもしれません。一方で「日本語である」以外の驚きは少し乏しいかもしれません。
【利点】
- インストールは簡単
- 日本語で書ける
- 面白い
- 予約語などを覚えやすい
- Windows に特化しているため、ファイル操作、Word/Excel の連携など日常業務の定形化に用いることができる
- 日本で作られ育っているプログラミング言語であるので日本語のドキュメントが充実
- 本も出てますしね。買ってないけど。
- 作者: クジラ飛行机
- 出版社/メーカー: ソシム
- 発売日: 2008/06
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 78回
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【欠点】
- 「日本語で書ける」以外の面白さにやや乏しい
- 利点の逆になってしまうが、Windows 以外のプラットフォームを考慮していない
Excel VBA
あーそこ石投げないで。
オイラもコイツがプログラミングの喜びを知るのに最高だとは思っておりません。
ただし業務上非プログラマが書く可能性の高い言語であるし、それならば、コイツでプログラミングの喜びを伝えることができるか? そのためにはなにをすればいいか? を考えることは意味があると思うのです。
こいつの場合、やはりなんといっても「普段使ってる Excel が自分の思い通りに動かせる!」ということが最大の武器でしょう。実業につながるのでつまんないっちゃそうなんですが、その驚きをどこまで引っ張ってモチベーションを維持できるかが、教える側の手腕になってくると思います。
【利点】
- インストール不要 (Excel が入っていれば)
- 普段使っている Excel がプログラミングの道具になるという驚き
- データを加工してグラフ化する、などといった定型作業をしている人なら、それが自動でできることに驚いてくれるはず
- 非常に充実したリファレンスマニュアル
- マクロ保存機能により、手で操作した内容をプログラムに落とせる
- Web 上にも出版物もそれこそ佃煮にするほど情報がある
【欠点】
- あんまりエレガントな文法とは言いにくい
- 「コンポーネント」という割と難しめな概念が分からないとコードが書けないのでやや敷居が高い
- 業務とあまりにも近すぎて、最初の驚きが終わってしまうとモチベーションを維持しにくい
おがさわらなるひこ的には?
私がもし、「プログラムをまったく学んだことがない人にプログラミングを教える」なら、ぜひ SCRATCH でやってみたいと思います。
単純にプログラムの楽しさを教えるなら、SCRATCH でひたすら押し通す。
課題を与えてプログラムを作らせるんじゃなくて、「なんか作ってみてくださいよ、わかんなかったら相談に乗るから」というスタンスで。
自分のアイディアを計算機で実現することによりなにかを得るというのが「構成主義」なわけですからね。
ゴールとしてなにかの言語でプログラムをする予定が有って、その導入、ということであれば、SCRATCH は特殊なところが多々あるので、あまり長い間 SCRATCH に固執するわけにはいきません。基本概念を伝えたら他の言語に移るべきでしょう。
具体的にどの言語か、ということについては、もうちょっとプログラミングの楽しさを別の側面から見せた方がいいかな、と思えばなでしこでもいいと思いますし、いやこれでもうプログラムの経験者だ、だからプログラマとして学ぶべき言語を学ぼう、というなら私の意見としては次回エントリで書くことになると思います。
ということで
極論めいたところもありましたがお楽しみいただけましたでしょうか。
次は「プログラマになるために」と題してお送りしたいと思います。
*1:イギリスの経済学者マックス・ウェーバーの著書の名前。「プロテスタンティズムと労働の弁証法」という名著を持つウェーバーが、なぜあなたはマルクスのように行動しないのか、と学生に詰め寄られたのを、いや、学問とはそういうもんじゃない、と説いた名著。って、なんで俺こんなとこでこんな注釈してるんだろ。