openSUSE + LibreOffice virtual conference 2020参加の感想(その1:LibreOfficeプロジェクト・コミュニティ)
そんなわけで予告したとおり、表題のイベント参加してきましたよ。通称oSLO。
参加したセッションの感想とかなんとかをまとめておきます。 時系列でみても退屈かなと思うので、テーマ別で。
なお、オンラインイベントということもあって、 あとから資料もビデオも公開されるでしょうし、 わたしみたいに大して英語ができない人間ががんばって聞いて内容を要約して公開するってニーズは、 もうないんじゃないかなと思います。 「なんだよーこいつ利いた風なこといってるけど全然英語聞き取れてないじゃん」ってなるのがオチなので。
ので、各トークの内容の要約はなるべく避けて、 背景とか前提とか、 聞きながら私が思ったり感じたりしたことを書き出す……というのが、この記事の趣旨です。 いや、そういうの別によいから……と思う人は、そっ閉じしてくださいませ……。
ビデオや資料が公開されたら順次こちらでも共有していく予定。
この記事は全3回予定です。
- その1:LibreOfficeプロジェクトとコミュニティ
- その2:技術・実装
- その3:その他(移行など、openSUSE関係、全体の感想)
LibreOfficeプロジェクトとコミュニティ
Opening Session and Address by Lothar Becker / 2020 October 15 - 10:00
登壇者のLothar Becker氏はThe Document Foundation(以下TDF)のThe Board of Directors(取締役会、以下BoD)議長です。
内容はともかくとして(オープニングなので)、当初利用予定だった https://oslo.gonogo.live/ がトラブって、 スライドの投影はできないしなんだりかんだりで、 しょうがないのでスライドなしでLotharが挨拶して、その裏でTDFのインフラチームが、 TDFがホストしているJitsi meetでイベント行えるように急遽準備して、 なんとかイベント開催できるようになった……そのなんというか、 ドキドキ感と感謝の気持ち、 それが先だっちゃって、話の内容はあんまり覚えてないです……ごめんなさいLothar。
Keynote from Collabora's Michael Meeks / 2020 October 15 - 10:30
LibOの開発・サポート企業の最大手、Collabora ProductivityのMichael Meeks氏によるキーノート。
そもそもCollaboraという会社がありまして、
LinuxカーネルとかGstreamerとかChromiumとかの開発・コンサルティングをやってる会社だそうです。詳しくないけど。
で、Collabora Productivityはその子会社で、LibreOfficeの商用版・長期サポート版Collabora Officeの開発・サポートなどなどをやっている会社です。 Meeks氏はそこの代表……だったはず。
ですから正しくはCollabora Productivity を付けるべきなんですけど、LibOの文脈だとみんな(本人たちも)断りなくCollaboraって言います。 私がこのブログとかSNSとかでCollaboraって書いたらProductivityを補って読んでください。
トークの内容は割愛するのですが、まあCollaboraはLibOの開発において最大のコミット数を誇る組織なので、 このキーノートで1年のLibO開発の大まかなトレンドがわかるところは、まあありがたいですよね。
大きなトピックとしては、LibreOfficeをブラウザー経由で動かすためのLibreOffice Onlineが、 TDFの配下からCollaboraアカウントのGithubに移ったことですね。
この理由についても説明があったんですけど、まあそれは込み入っているので彼らが公開しているFAQ見ていただくのがいいかなというのと、 私の感想は関連する別のトークのほうで書きます。
On sessions, statutes and software / by Florian Effenberger / 2020 October 17 - 11:00
TDFのExcective ProducerであるFlorian Effenberger氏によるTDFという組織についての講演。
TDFって実は約款に「LibreOffice」って文字は入ってないんだよーとか、「everyone contributes what they're best at(みんなが得意なことで貢献する)」って言葉とか、 一生懸命やってたら、それは普通の人生と一緒で緊張感がある対立することもあるよね、だけどそれを一緒に解決するの大事だよねみたいな話が印象的。
特に最後のは、今のLibOコミュニティはけっこうなんというか、 それこそ「緊張感がある対立」のさなかにあって、 それに対する感想としてはTwitterに書いたことでほぼ尽きていて、
(TDFの理想はすごい共感するし、それが、大してできもしない英語でカンファレンスに参加したりしてる理由だったりするのだけど、正直、理想を実現するためにがんばるとか誰かと利害を調整するとかが(それが非常に大事なことはわかってるんだけど)今のぼくにはつらすぎるんだよなあ……
— Naruhiko Ogasawara (@naru0ga) 2020年10月17日
(TDFの理想はすごい共感するし、それが、大してできもしない英語でカンファレンスに参加したりしてる理由だったりするのだけど、正直、理想を実現するためにがんばるとか誰かと利害を調整するとかが(それが非常に大事なことはわかってるんだけど)今のぼくにはつらすぎるんだよなあ……
ってことなんですよね……。
COVID-19のせいなのかなんなのか、 私はもう議論を積み重ねるとか、利害対立を丁寧に解決するとか、 そういうことをできる精神状態じゃなくて、 そういうの見てるだけでもけっこうつらくて、ねー。
あとですね、プレゼンのなかで、2016年のチェコのBrnoのLibreOffice Conferenceの集合写真が紹介されて、 Jitsi meetのチャット欄で「この写真に写ってる人挙手!」って呼びかけに、ぱぱぱぱぱって手の絵文字が並んで。
このLibOConって、私現地まで行ったけどカンファレンスに参加できなかった年なんですよ。入院してね。 Florianと、TDFの秘書役のSophieと、あと日本人参加者で作ってくれたFacebookメッセージチャットでFlorianが、
「ゆっくり休養してね、我々はみんな、君もこのカンファレンスの参加者だと思ってるから!」
って言ってくれて。まあ既出なんだけど、私は思わず病院のベッドで布団かぶってしくしく泣いたりしたわけですよ。おっさんがキモいけど。 この、チャット欄を流れる手の絵文字を眺めながら、それを思い出してました。
LibOってそういう、Florianに限らずほんとに温かい人がたくさんいるコミュニティで、 良くも悪くも家族的だったりするんですよね。 そういう人たちとチャット欄で話してると、 いや確かに今は解決すべき対立関係があってそれを見ているとしんどいけど、 だからといってまったく縁を切るんじゃなくて、 「コミュニティの一員」としてそういうのに立ち向かうのは無理としても、 付かず離れずの関係はもっておきたいな……と思いました。 そういう困難に立ち向かってる人への尊敬の念は忘れないようにしつつね。
って、これトークの感想じゃないな……。
The history & pre-history of LibreOffice / by Michael Meeks / 2020 October 16 - 13:30
OOo時代からLibOの歴史を振り返る的な……。
他のトークと重複するところもあるので箇条書きで。
- 端的に感想を言えば超おもしろかった*1。
- 「非協力的な非貢献者……アジア地区で典型的……」つまりコードをforkして開発するけどその変更をcontribute backしないことについて触れてる。これについてはまた別のトークにて。
- 2011年7月のパリの第一回LibOConで、すでにブラウザバージョンの試作なんてのが発表されてたとは知らなかった。
- 2012 - Becomes clear: Linux Desktop economics suck ;)
- こういうディスカッションに入っていくには自分の英語力では全然足りないですね。
Ecosystem, Branding & Investment / by Michael Meeks / 2020 October 17 - 15:15
すぐ上で紹介したトークの続き的なところもあり。
ここでいう「エコシステム」というのは、平たく言えばLibOでビジネスしてる組織、 プロフェッショナル開発者を雇用して、コードやその他で大きく貢献して、 さらにはTDFのAdvisory Board*2 だったりする組織です。
いくら高邁な思想があっても、みんな霞を食っては生きていけない。 なのでフルタイムにせよパートタイムにせよ、開発者を雇用する組織があることは、 とっても大事なのです。「エコシステム = 生態系」って言葉もわかる。
でま、Collaboraはコミット数ベースで4割ぐらいをたたき出している、 LibOのエコシステムのある意味代表なわけですね。 その彼らと、少なくともコミュニティの一部が、若干利害が対立しているところがあって。 LibreOffice 7.0のリリース前のテスト版に「Personal Edition」ってのが入っててちょっと揉めたというか話題になったというか、 そういうことがありましたが、これはこういうエコシステムとコミュニティの対立を解決しようとするさまざまな試みの一部が、 漏れ出してしまったところがある……というのが私の理解です。 まあ、そういう難しい話題をいろいろ考えましょう。というトークです。
もちろん、CollaboraのGeneral Managerという立ち位置のMeeks氏の視点からなので、 そこはもちろんバイアスがある話なわけですが。
繰り返すように私はこういう利害対立について意見をするには少々理解がおぼついていないところがあります。 なので一点だけ。
オリジナルのソースをForkして「ローカル版」として商用版をリリースして、 その修正をcontribute backしない、 そういう例はアジアではしばしば見受けられる。
といって、中国のRed Flag LinuxのOffice実装や、台湾のLibreOfficeフォークのOxOfficeのことを名指しで批判しているように聞こえました。
正直私はこれらのオフィスについてそれほど知っているわけではない*3 のですが、アジア圏のLibO(あるいはOOo)のフォークが自分たちの変更をフォークもとに戻さないことについては、ちょっとだけ思うところがあります。
まず、我々東アジア圏の人間がLibOに手を入れようと思う多くの動機はCJK周りの不具合なんじゃないかと思います。 しかし、LibOの実装は、「自分がこれに手を入れたら壊れるのではないか」と不安になる程度は複雑に思えます*4。「日本語が正しく出るように直したらアラビア語が壊れた!」とならない自信を持つのは非常に難しい。
LibOの開発はやってないけど一応プログラマーである私から見ると、「今ある問題をとりあえず解決する」コーディングと、「あるべきようにきれいに問題を解決する」コーディングにはだいぶ距離があって、ローカルな市場だけを考えたら「とりあえず対象の言語だけが直るような修正」は前者で、それだけをやってればビジネスになるとしたとき、後者までやる合理的な理由はあるのか。
もちろん、理屈の上では、upstreamから改善点をインポートし続けるつらさを考えると、upstream firstで進めていくほうが合理的……というのは、あります。
けど、ここでもう一つあって、ちょうど、oSLOが終わったあたりでTwitterを見たら目についた書き込み。
#cfjsummit Day1終了後の深夜に話されてたOSSのフリーライド問題、日本ではやはり言語の壁が要因の一つだと思う。「コーディングに自信はあっても英語には自信がない」という人は多い。英語圏OSSへのコミットをサポートする取り組みは必要。来年のアンカンファレンスのテーマかな
— MaySoMusician (@MaySoMusician) 2020年10月17日
cfjsummit Day1終了後の深夜に話されてたOSSのフリーライド問題、日本ではやはり言語の壁が要因の一つだと思う。「コーディングに自信はあっても英語には自信がない」という人は多い。英語圏OSSへのコミットをサポートする取り組みは必要。来年のアンカンファレンスのテーマかな
この理由ってめちゃめちゃある気がするんですよね……。
gitのコミットコメントを英語で書くのがまずたるい。
Gerrit上でレビューコメントがついたときに英語で議論するのがしんどい。
そんなしんどい思いをするぐらいならupstreamの変更を取り込むときにしんどい思いをするほうがまし。
少なくとも私は、そう思わない自信がないです。
なので、「アジア圏では各国語版みたいなの作ってupstreamに貢献を戻さないことがよくある」と言われてしまうと、 だってそれはあなたたちが貢献を戻すよりもずっとコストが高いんだもの……と、なってしまうんじゃないかな……。 そこのコストを下げる取り組みをしないで、upstreamに貢献を返さないなんて!と正論を言われても、 対立は解消しないんじゃないかな。 そんなことを思いながら聞いてました。
……なんてことを日本語で書いても、意味ないんですけどね。
そもそも、「コストを下げる取り組み」にいいアイディアはないですし。だめじゃん。
……ぜんぜん、カンファレンス参加メモじゃないですね。次行きます。
地域コミュニティ
日本語チームからもこのネタの発表あったけど、前述のとおりドロップアウト組としてはちょっと無理で聞けてませんでした。 でもイベント参加者向けTelegramとか、次のコマを聞きに行ったときに垣間見えたJitsi meetのチャットログとかを見ると、 どちらもとても好評だったようで喜ばしく思います。
それ以外の地域コミュニティ事例、韓国とインドネシア。
Building LibreOffice Korean Community and CJK's common & different issues / by DaeHyun Sung / 2020 October 16 - 10:30
感想としては、「デヒョンさん話題盛り込みすぎだよ~」でした :)
私は彼と直接話も何度かしてるし、なんといってもCJK文化圏ではあるのでそrなりに話題についていけるんですけど、 あれ文脈が全然ない人にはちょっと難しかったんじゃないかな……Jitsi meetのチャットでも「スライドめくるのはやいよー」って意見が出てたし。 ちょっともったいない気持ちがしました。
トピックとしては:
という感じでしたが、三番目の話とかもっと掘り下げて聞きたいな、とは思いました。 DaeHyunさんにとっては初のLibOCon登壇なので、色々話したかったのはすごいわかるんですけどね。
でもRed Star OS付属のオフィスソフトのスクショの話とか、北朝鮮のクライシスマッピングについてのAkademy 2018のキーノートについてとか、いろいろ面白いトピックが詰め込まれた内容でした。Akademy 2018のキーノートは前にもお話聞いたんですけど、ちゃんとチェックしてなかったので改めてビデオ見てみようって思いましたです。
DaeHyunさん、おつかれさまでした!
Building Upstream Contribution in Local FOSS Community / by Kukuh Syafaat / 2020 October 16 - 11:15
インドネシアは若いOSS活動家がたくさんいる非常にアクティブなところです。 2019年に行ったLibreOffice Asia Conferenceにも、2017年にお手伝いしたopenSUSE.Asia Summitにも、大勢来てくれました。
でも、正直な話、ちょっと前までは「なんかすごい盛り上がってるみたいだけど、じゃあ、中で何やってるの?」という気持ちが、私の中になかったとは言わないです*6。
それが、特にデザイン回りでの貢献がすごい。例えばLibO 7.0の新機能紹介のビデオはインドネシアチーム編集です。
今回のoSLOのロゴは、このトークの登壇者Kukuhによるものですし:
OpenOffice.org / LibreOffice 10/20 ステッカーのデザインもやっぱりインドネシアのRania Amina氏によるものです。
こうやって、「デザインはインドネシア」みたいな色があるっていいですよね。LibreOffice IDのFacebookグループ3900人も参加者いるってのもすごいです。
……って、これもぜんぜんトークの感想じゃないな……。
ま、そんなわけで、クッソ長くなってしまいましたがいったん終わり。明日以降、その2を書いていこうと思います。
*1:去年のLibOConでItaloが「10/20の記念としてOOo/LibOの歴史書を書こうと思う」みたいなこと言ってたの思い出した。あれ実現しないかなー。
*2:お金を出す代わりに「アドバイス」をする権利がある組織、 平たく言えばスポンサー。
*3:公平を期するためにいっておくと、今TDFのBoDの副議長でもある台湾のFranklin Weng氏とは仲良くさせてもらってますが、FranklinはもちろんOxOfficeな人たちとつながっています。そしてその縁で私もOxOfficeの中の人と一度ご飯を食べたことがあり、Facebookのお友達だったりもします。
*4:私はろくすっぽ開発やってないですが、我らがCJKヒーロー台湾のMark Hung氏も、LibreOffice Asia Conference 2019の基調講演で似たようなことを言ってたと思います。
*5:Contribution + Malathonの造語らしい。日本で言えば未踏みたいなものかしら?
*6:おんなじことはLibOでも「日本のコミュニティイベントたくさんやってるしとっても活発だけど、なにやってるのかさっぱりわかんないよ」って言われてましたけどね。