おがさわらなるひこのオープンソースとかプログラミングとか印刷技術とか

おがさわらなるひこ @naru0ga が技術系で興味を持ったりなんだりしたことをたまーに書くブログです。最近はてなダイアリー放置しすぎて記事書くたびにはてな記法忘れるのではてなブログに移行しました。

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openSUSE + LibreOffice virtual conference 2020参加の感想(その3:事例、その他、openSUSE、全体の感想)

表題のイベントの感想、その3。今回は過去2回で書ききれなかったもの。

events.opensuse.org

繰り返しますが、「イベントレポート」ではなく、つまり各トークの内容を紹介するものではなく、 背景とか前提とか、 聞きながら私が思ったり感じたりしたことを書き出す……というのが、この記事の趣旨です。 ちゃんと内容知りたい方は動画・資料の公開待った方がいいと思いまする。

この記事は全3回です。

LibreOffice事例

State of CJK issues of LibreOffice, 2020 edition / by Shinji Enoki / 2020 October 15 - 11:00

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榎さんの伝統のシリーズ。

事例かと言われると微妙だけど、技術系のエントリーが長くなっちゃったのでこちらに。 といって、このネタは多分、今日本語コミュニティから距離を置いている私より皆さんの方が明るいのではないでしょうか。

DaeHyunさんが報告してくれて私も含む何人かの共同作業で直したバグについて触れてくれたのはありがたや。

しかしこの不具合、実はヘルプ直すって宿題が宙ぶらりんなんですよねえ……やらなきゃ。 TODOとしてまずはBZに起票するところ、ってずっと思いつつやってない。よくない。

Introduction of Libre Office and ODF in Aizuwakamatsu City / by Jun Meguro / 2020 October 15 - 12:30

events.opensuse.org

素晴らしい発表でした!!!!

ご存じ会津若松市は日本における代表的なOpenOffice.org / LibreOfficeの移行事例です。 そして登壇者の目黒さんはその推進役であり*1、 かつLibreOffice日本語チームに所属して活動されているコミュニティマインドを持った人でもあります。 IPAmj Font Charactor Finderなどの拡張機能も公開されています。

そして、これは私がLibOConに行くたびに言われていたことなのですが、 「日本語コミュニティはMLやSNSの流量を見ても、イベントたくさんやってることからもすごく活発なのはわかるんだけど、 何をやってるのかよくわからない」とされてたんですよね。 まあこれは日本だけじゃないと思いますけれども(例えばインドネシアも、2018年のインドネシアカンファレンス以前はそういわれてましたし)。 2019年のAsia Conferenceも、Italoが「いいから一度俺を日本に呼べ」といったのが、開催の一つの理由でもありました。

なので日本の代表的な移行事例の現状を、 目黒さん自身が話すというのは、もうそれだけで重要な意義があるわけです。

それだけでなく、内容も非常に良かった。

わたくし前のエントリーで:

正直な話、私にとって新しい話が出てくるとはそんなに思ってない

などと失礼なことを書きましたが、どうしてどうして、耳新しいことばかりでした。利いた風なことを言ってはよくないね、反省。

外字回りの苦労談、OCRフォントが適切に扱えないので(だったかな)FontForgeで自前でフォントデザインした話。 HarfBuzz導入に伴うLibreOfficeのテキストレンダリング再実装により、それ以前に作られた文書と改行幅が変わってしまう問題*2に対して、拡張機能を作って対応した話とか、レベルの高さが際立ちますね。

もし日本のいろんな地方自治体がこういうITのレベルであれば、LibreOfficeの導入どころかもっと大きな問題にも軽やかに取り組めそうですが……ともかく素晴らしい。

地方自治体がLibreOffice/ODFを採用すべき理由として、市庁舎のホールにある紙と鉛筆のアナロジーで「利用者を限定しない」ことの大事さ、 「公的機関におけるドキュメントの保管は長期間であることが求められるので、長期間読めることが保証される文書形式が求められる」といったメッセージも、 非常に力強いものだと感じました。

いやーすばらしかった。オンライン開催には良いことも悪いこともあるけど、この発表が実現されたことは明らかによいこと、ですね。

Working with native/indigenous communities to build native language LibreOffice projects / by Kuan-Ting Lin, WangLarry / 2020 October 16 - 11:00

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台湾先住民が使う言語(台湾諸語、っていうのかな?)にLibreOfficeを対応させよう、具体的にはスペルチェック辞書の開発とUIの翻訳をする、という発表が2019年のLibOConにありました。

この発表はその続き的なものですが、LibreOfficeに関しての話ではなくて、そういう……なんというのかな、自分が当事者じゃない問題に対して、 それを解決するために取り組む、そういう活動を進めるにおいて注意すべき点を共有するという、これは非常に興味深い発表でした。

こういうことをやれば当事者の役に立つ だろう といった予見は捨てろとか、 相手の文化をunderstand and respectすることが大事とか、 誰と話をすればいいかをちゃんと見極めろとか、 そういう、LibOに限らず大事な話がたくさんありました*3。 これもまたビデオ公開されたらしっかり見直したい。

The importance of ODF for Digital Sovereignty strategies / Italo Vignoli / 2020 October 16 - 18:30

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どのプログラム見ようか記事にも書いたけど、Digital Sovereignty(デジタル主権)というのは最近ヨーロッパで重んじられている考えみたいで、 デジタル上の活動を他者(大手クラウドベンダー)に握られるのではなく自分たちで握ろう的な考えのようです。 それを、自分たちの知的財産である「ドキュメント」(ここでいうのはオフィスドキュメントではなくあらゆるデジタルデータのこと)に限定すると、Document Freedom(ドキュメントの自由)という考え方に近いですね。

なので、このプレゼンの主張は概ね、ドキュメントの自由という観点で主張していたことと同じだな……というのを確認できました。 ODFがなぜドキュメントの自由、デジタル主権という考え方において優れたフォーマットであるかということについて、 「マーケティング的」にまとまった資料なので、日本語訳して「アイデアボックス」の主張における参考資料とかにしたらいいんじゃないかな。

ただ、私正直いって、この主張には全面的に賛成するし、ODFの優位性も認めるものの、 「ファイルフォーマットの問題」と「アプリケーションの問題」を意図的に混同してるのが気に入らないんですよね。 言い方は悪いけどアンフェアに感じてしまう。

そういう不正確さはおいといて、わかりやすいストーリーにすることが「マーケティング的」には正しいのかなあとは思うし、 アンフェアと言ったら向こうはもっとアンフェアじゃんと言われればそうなんですけどね。

そういうことを考えるという意味でも、広く触れてほしいプレゼンではあります。なんかえらそうだな。

LibreOfficeその他

Marketing and social media in LibreOffice / by Mike Saunders / 2020 October 16 - 17:15

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ホントはその1で紹介するべきエントリだったのだけど漏れてましたごめんなさい。

Mike Saunders氏はTDFのマーケティング・PR担当で、雑な理解ではItalo Vignoli氏が割とビジョン・政治担当で、Mikeはもっと実務より。 TDF公式SNSアカウントの中の人はだいたいMikeじゃないかな……と。ということでこのプレゼンはその点について。

ぼんやり聞いてたのであんまり覚えてないですが、ちょっと面白いなと思ったのは:

  • Mastodon(TDFはFosstodon https://fosstodon.org/about にアカウントを持ってます)はフォローはほかのSNSに比べてずっと少ないけどTechな人たちが多いので意味がある
  • (その1でも紹介したけど)YouTubeLibreOffice 7.0の新機能ビデオは今年からインドネシアチームが作るようになってくれてモダンになったよ

あたりかなあ。

TDF Closing Keynote / by Lothar Becker / 2020 October 17 - 16:00

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Closingが二つあってややこしいですが、これは閉会ひとつ前のコマで行われたイベント主催としてのTDFのキーノート。

ふんふんと感心して聞いてただけで手元にメモも残ってないですが、Kuan-Ting Lin氏らによる台湾諸語のプレゼン、 あと目黒さんの市庁舎のホールにある紙と筆記用具のアナロジーに言及してくれていて、 もちろんこれはどうしてもヨーロッパ中心主義的になりがちなTDFとしては多様性に配慮したコメントだったということはあるのだろうけど、 素直にいいなあと思いました。

全体を通して「よいキーノートだった」という記憶だけはあります。ありがとうLothar!

openSUSEサイド

ちょっとだけ聞きました。「The SUSE Security Team」とかも途中まで聞いて面白かったのですが体調が悪すぎて途中離脱しました残念。

Podman on Kubernetes Cluster Production Grade / Estu Fardani / 2020 October 15 - 11:30

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  • 実のところあまりわからなかった……入門すらしてないのにProduction Gradeの話を聞いたのが間違いか。
  • k8sもPodmanもCRI-Oも触ってないのは今日日恥ずかしさがある(Podmanは2秒ぐらい触ったけど)
  • キーワードは仕入れたので後々かな……

Powering the Jump (SUSE Keynote) / by Markus Noga / 2020 October 15 - 14:30

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  • 途中からしか聞いてないです
  • openSUSEユーザーじゃないけど外から見ている限りでは、 openSUSEはSLEとの関係をどうするかってことをずっと模索してきたように見えて、 今回「Leapの次のJump」で、そこのところを今度こそきれいに整理する……って話なのかな、と感じました
  • 掛け声だけじゃなくていろんな仕組みも整備して、プロジェクト間のパッケージのやりとりも明確にして……という
  • チャット欄はおおむね好意的な反応だったように見えましたので、openSUSEな皆さんにとってはよいことなのかなあ
  • 多分Leap Nextのセッションを見ればより詳しくわかるのかな。もうビデオ公開されてるので関心がある向きはぜひ

Hat making / by Ben Cotton / 2020 October 16 - 20:00

  • Fedora Program ManagerであるBen Cotton氏による、Fedoraプロジェクトの概説
  • Fedoraでうまく言ってるやり方を紹介するよ、openSUSEでも取り入れられたらいいんじゃない? みたいな温度感かな
  • 実はあんまり知らないFedoraの中の話を聞けて興味深かったです
  • Fedoraはプロジェクト自体は法的実体がないので、商標とかの管理はCouncilがやるけど、法的なあれこれはRed Hatがやる……ってことかな? そういう話も面白かった

全体の感想

と、いうことで全体の感想です。

  • とにかくインフラチームの皆様お疲れさまでした
  • プロプラ、クラウドを使わない、独自インフラでがんばるって条件の中、大過なく終えられたのはほんとに素晴らしいと思います
    • まあ、参加者総数400人を切ってる、日本国内でちょっと大きなイベント回してる人からするとびっくりするぐらい小さな規模のイベントなのでできる話なのかもだけど
  • Jitsi meetのURLを一部の参加者が(言っちゃえばCollabora Productivityの公式アカウントが)Twitterで公開しちゃったので、Jitsi meet bombがやってきたのがうざかったけど、これもすぐに排除に動いて、大きな迷惑をこうむらずにすみませした。
    • セッションによってはお気の毒様というのもあったけど……

最後のクロージングで:

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LibreOffice10周年おめでとうなビデオをみんなで見たときには、ウルっと来ちゃいました。

www.youtube.com

なんというかな、英語もわからない、大したこともしてない、そんななか(周囲の理解もあって)LibOConに出続けて、 知り合いもそこそこにできたので、 チャット欄で知り合いと絡んだりしてるだけでも、なんか一緒にいる感がすごいあったんですよね。

もちろん、チャットで軽口を叩くには私の英語力だと限りがあるし、 いわゆるリモート飲み会的なモードになってしまうと、これはもう私の英語力だと絶対割り込めないんで、 限度もあるんですが、 それでも楽しめたのは平たく言えば、過去の貯金のおかげですね。

あー、よいイベントでした。楽しかった!

みんな本当にありがとう!

……でもなあ、本音を言えば、やっぱり直接あって一緒にビール飲める方がいいよなあ……。

早くコロナ収束せんかなあ……その兆しも見えないけど……。

*1:実は、わたくしOOoの導入時のことは詳しくなくて、後から聞いた話なのですが……。

*2:OSプラットフォームによらず同じフォントを使っていれば同じレイアウトになることを目指した再実装なので、これは不具合というより、仕様変更なのかもしれませんが……。Twitterで「HarfBuzzは改行幅と関係ないよ、Linuxではずっと前から使ってたんだしHarfBuzzの問題じゃないでしょ」って突っ込まれたけど、Windowsについては動作が変わったのは、理由はともあれ「問題」といわれても仕方がないのかなと。

*3:あと、自分の触れやすい世界でやりやすいことしかしてこなかった自分にダメだしされている気分がすごくしました……。