ネットプリントについてそろそろ一言いっとくか
↑みたいな言い回しも古いよねえ。相当。
あなたのおうちから、お手持ちのノートパソコンから、さまざまなデータがソフトがなくてもプリンタがなくても、お近くのセブンイレブンで受け取れるサービス、それがネットプリント。
去年の第100回カーネル読書会のときにも使ったり、みんなに「便利ですよー」と言って回ったりして、お前なんで他社の宣伝してんねんという感じなわけですが、最近 iPhone/iPad 用アプリなんか出したりしてさらにブイブイいわせてるみたいですので、プリンタ屋さんとしてちょいと語っておこうかなと。
ネットプリントとは
非常にぶっちゃけていえば「Web サーバに適当な形式でファイルを送ると認証コードがもらえて、それと引換に全国のセブンイレブンで印刷が可能」というサービスです。
似たようなサービスはKinko'sが前からやっていたし、海外では普及しているサービスでロケーションフリー印刷といって、例えば出張で宿泊してるホテルにあるプリンタで自分のPCから印刷できるサービスとかもあるので、このサービスがすごく新しいというわけじゃ全然ありません*1。
じゃあプリンタ屋から見てのネットプリントのポイントは、
の二点なわけです。
手軽にリーチできるサービス:技術シーズの広告塔
一点目は完全にビジネスの話。
技術的にはシーズはどこの会社だって持ってたんで、これはもう、協力関係を成立させた人の勝ち。いちおう競合他社に属する私としては、このサービスを提案して成立させられなかったことを恥じねばなりません。
まあそれはともかく、「セブンイレブンにいけば印刷できる」というのがどれだけ安心できるかということですよね。Kinko's に比べたら探すの圧倒的に容易だもん。
そしてプリンタ屋としては、「ロケーションフリー印刷」というシーズがあるということを多くの人に知らしめたこと、そこにものすごい便利さと可能性があること、それがお手軽に体感できるっつーこと、そこに絶大な意味を感じるわけです。
サーバサイドでのコンテンツ変換
二点目。
例えば .doc とか .xls とか .ppt とか送って印刷できるということは、サーバサイドで印刷可能な形式に変換してるということ。
これって当たり前のように考えちゃうかもしれないけど、いやいや。
我々プリンタ屋がどれだけ「他の人からメールでもらった Excel データを印刷したらズレズレでゴミを大量生産した」って怒られるか。
MS Office っていうか Windows の印刷システムって繊細……というと嘘になるな、ともかく、外乱に弱くて、ちょっとした違いが印刷結果の違いになっちゃう。一番顕著なのが Excel だけど。
しかもこのサービス一枚いくらで金取るんすよ。あなおそろしや。
非技術なところとしては、もし MS Office を使ってるんだとしたら、サーバサイドに市販ソフトを置いて動かすっていう場合にどういうライセンスで契約したんだろうとかいろいろ考えちゃいますけど、それはまあ今回はおいておいて。
「サーバサイドでコンテンツ変換して印刷可能なデータにする」というところにエンジニアの知恵を絞る余地がある、ということを知らしめた功績は大きい、と私は考えています。
ネットプリントはプリンタ屋のビジネスの脅威じゃないのか?
ええ、脅威ですよ。
というか、個人的には個人でプリンタを持つ必要がある時代は確実に終わりを迎えようとしていると思ってます。あと数年とか、そういうレベルだと思う。
多分個人ユーザーにとって一番印刷が使われる年賀状だって、サプライとハガキの値段考えたら印刷屋に出したほうがコスト的にペイするし、なんならウェブポみたいなサービスだってある*2。
地図とかも Google Maps や NAVITIME (私 au なんで EZ ナビウォークですが) を使えばいいし、クーポンだってモバイルサービス使えばいいし、たまーに「このメールを印刷してお持ちください」とかいうセミナーについてはメールを携帯に転送して「これでいいっすか?」ってやってるし、印刷、いる? と思うわけですね。
ネットプリントは一枚あたりのコストが相当高いので、家庭で頻繁に印刷するような人にはまだコンシューマプリントは残ると思いますが、相当減っていってもおかしくないと思います。
最低でも A3 機の需要はそうとう減るだろうなあ。個人で A4 以上の印刷したいニーズってごく限られてるだろうし、まさかのため、という理由ならネットプリントで十分ですからね。
まあそういう意味では、このビジネス、コンシューマプリントで大きな売上を出してるベンダーだと始められなかっただろうなとは思います。
ではなぜネットプリントを推すのか?
繰り返しますが、
- ロケーションフリー印刷という概念。あなたのいるところの近くのプリンタから印刷できますという技術シーズ。その嬉しさをリアルで体感できること。
- サーバサイドでコンテンツ変換を行うことの重要性の認識。
の二点を掘り下げていって、面白いサービスを考えられないか、そう思うからです。
そして、それを考えられるのは、多分プリンタベンダーの人間ではなく、コンテンツを持っている人間ではないかと思っているからです。
ウチの会社と、とはいわない。
けど、そういうことを真面目に考えてみようって人、いませんか?
きっとすごく面白いことが、なにかできると思うんですけど。
とっても不満な iPhone 版ネットプリント
ということで、今回のエントリの動機となった iPhone 版ネットプリントについて。
実際に触ったわけじゃないですが、公式サイトやニュースリリースやブログエントリを見ると、写真の印刷が主で、メールでPDFが送れるとかそんなもんらしい。
うっそー!
あのえーとですね、さっき家庭用プリンタ不要論をぶちましたけど、写真を紙にしたい人はネットプリントなんかつかっちゃダメです。できれば写真屋にメディア持ち込んでピクトロ*3 で印刷してもらうか、せめてインクジェットで印刷してください。
トナー屋さんがいくら頑張ってくれてるとはいえ*4、電子写真(レーザープリンタなど)というのは再現できる色が狭いんですよ。平たく言えば画質が悪い。あんなので写真を印刷して定常的に見てたら審美眼が衰えますってば。まあ対候性とかは優れてるから、メリットがないとはいいませんけども……。
インクジェットの方がずっといいですし、ピクトロならカラー写真と原理的におんなじ方式なんで画質という面では文句ないです。
もっといいのは印刷しないこと。フィルムカメラだってネガを焼くよりポジを見る方が綺麗っていうでしょ? 発光の方が反射よりも色については性質がいいんです。印刷するよりディスプレイで見てる方が幸せですよん。
ま、でも iPhone のカメラはノイズだらけでボロい、汚いと評判だし、3GS までも液晶はコントラストが悪くて黒が青く見えるといわれてたから*5、別にいいのか?
おっと、毒が出た。それはまあいい。
PDF については、もう、なんだかなぁって感じ。
ユーザーエクスペリエンスとして全然クールじゃない。
そんなんだったらそこら辺にあるプリンタに全部 Bluetooth つけといて BT で投げるとかの方がずっといいよ。面白くもなんともない。
はっきり言ってしまうと、がっかりしました。
がまあ、逆に言えば、サービスとしての伸び代はまだまだあるってことですね。